日本のヴァイオリン人口はおよそ10万人くらいだと言われています。

そのなかでプロとして活躍している人が1,000人、さらにそのなかで世界的に名前を知られているヴァイオリニストはおよそ30人。

上位1%がプロになれるというと、偏差値なら73ほどになります。
河合塾のウェブサイトによると東京大学理科三類の偏差値が72.5ですから、どれほどの難しさというのはなんとなく想像できますね。

裏を返すと、世の中のヴァイオリン弾きは大抵プロになれません。
「メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ってきれいな曲だなあ」と思っていても、オーケストラと共演する機会に一生恵まれないのが現実です。(プロでもソリストとして活躍していないと無理ですよね。)

プロになれないと分かりきっていても、どうしても「なぜ自分はアイツより下手なんだ」という劣等感や競争意識を持ってしまいがちです。

でも人と比べるのは自分を追い詰めて気分を暗くするだけなのでやめたほうがいいですね。

前橋汀子さんも言われた一言「人と比べてはいけないよ」

長いキャリアを誇り、2021年現在も第一線を走り続けるソリストの前橋汀子さんもソ連に留学するときに師である齋藤秀雄さんに言われたようです。
私は高校を中退して留学することになった。桐朋の恩師、齋藤秀雄先生から呼び出された。「君ねえ、絶対に人と比べてはいけないよ」と先生は言った。私は少しムッとしたし、よく意味が分からなかったが、後にこの言葉を何度も反芻しながら涙を流すことになる。
『ヴァイオリニストの第五楽章』にはこのように書かれていました。
齋藤秀雄さんは、ソ連に行けば自分よりうまい人がゴロゴロいるということを見抜いていて、あらかじめ忠告しておいたのでした。

事実、前橋汀子さんは留学先で自分の指の使い方など基礎的なことをやり直すことになり、コンクールでも予選落ちしてしまうなど、思うような実績をあげることができませんでした。

たしかに芸術というのはオリジナリティがなければいけませんし、単なる技術の積み重ねだけでは人を感動させる表現に到達しないでしょう。
それ以前の問題として、他人と比較して自分になにが足りないのか・・・、と思いつめてしまえば考えるほど狭い道に迷い込んでしまうはずです。

自分のできることを地道にやっていくしかない

前橋汀子さんほどのヴァイオリニストでもこういう気持ちになるわけですから、アマチュアの私たちも周りの人と比べてイライラしたり、がっくりとなることはむしろ当然かもしれません。
とはいえ競争というのは当然勝ち負けがあり、勝っても負けても面白いものではありません。

千住真理子さんのお父さんは「他人と競争するためなら、おやめなさい」と娘に諭し、ヴァイオリンを自分を磨くための手段と捉えていたようです。

健康に生きていられる時間というのは自分が思っているよりもずっと短いわけですから、こういう考え方を胸にしまって日々自分のできることを精いっぱいやっていくのが一番健全なのでしょう。