自宅でヴァイオリンを練習していると「うるさい」というクレームが来たりする可能性があります。
だから公園や河原で練習することを考えている人もいるかもしれません。

私もヴァイオリンを何年も弾いています。私がこの楽器を始めたのは18歳のとき。何年もかかってやっとこさモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』までたどり着きました。先生に教わった期間はいままで通算で8~9年くらいでしょうか。

あまり上達が速いとは言えないですね。モーツァルトのこの曲って、将来プロを目指そうと思ったら小学校低学年でクリアしているべき曲です・・・。(東京藝術大学の入試でパガニーニが出題されると仮定すると、逆算するとだいたいそんな感じになります。)

結論から言うと、ヴァイオリンの練習場所として公園や河原は向いてないというのが私なりの実感になります。

以下、理由を述べていきます。


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ヴァイオリンの練習場所として、公園や河原は向いてないだろう論

1.盗難リスク
ヴァイオリンは高いものだというイメージはどうしてもつきまといます。
ストラディヴァリウスやグァルネリといった銘器なら数億円の価値があることはTVで繰り返し報道されていますからね・・・。

初心者向モデルならセットで5万円くらいですが、予備知識ゼロの人はぱっと見て「5万円だ!」と分かるはずもないですよね。

というわけで練習中のあなたに目をつけた悪い人が、あなたが目を離した隙にヒョイと持っていく可能性は、やはりあります。

以下は、楽器盗難の有名な事件です。

2007年5月
レンタルバイオリンの大手企業が静岡県で開催した展示会場で、ガルネリタイプのバイオリン(時価2,000万円相当)が白昼警備の隙を縫って盗み出された。盗難から6日後、同社、東京吉祥寺店より発見された。
2012年3月
50歳男性のバイオリニストが、奈良市内でコンサートに出演後、楽屋に置いておいたオールドモデルのバイオリンと弓の盗難に遭う。被害総額は1,600万円相当。当日、ホールの中には警備員が配置されていたが、共演者の出入りなど充分なチェックがされていなかったことから、警備の甘さが指摘された事件。
2012年9月
大阪市内のコインパーキングで駐車中に車上荒らしに遭い、車内に置いていた1883年製のバイオリン、弓、ビオラをケースごと盗まれる。被害総額は約500万円相当。

(https://kaitori.e-daikoku.com/gakki/caution/より)

電車の中で無くなった事例も。
2004年3月
大阪フィルハーモニー交響楽団所属の女性が私鉄電車の中で寝過ごしてしまい、慌てて下車したところ、所有する1,500万円相当のバイオリンを紛失したことに気付き、警察に届け出た。
  本人は「ケースは足元に置いていた。忘れたのか、持ち去られたのか分からない。」と話をしている。

(URL上記に同じ)
世の中の99%の人は犯罪に手を染めないはずですが、1%の悪意ある人があなたに近づく可能性はあります。誰もが自由に入り、立ち去ることができる場所での練習はちょっと危険です。

2.環境面の難点
強風で楽譜が飛ばされてしまったり、吹き散らされた砂をかぶったり、直射日光が当たったり、にわか雨に打たれたり・・・。
他にも近くでキャッチボールが始まったりすると「流れ玉があたるんじゃないか」といつもビクビクする羽目に・・・。

3.音響面の難点
ヴァイオリンという楽器は共鳴というものを非常に重視しています。
自分が弦を鳴らした時、それが十分に響き渡っているかどうか・・・。G線でDの音を出した時、隣のD線がわずかに振動し、共鳴しているか・・・。こういうことは残響が発生する部屋の中でこそ感じられるものです。オープンスペースではかなり厳しいです。

それでも、自宅で練習できない場合

どうしても自宅で練習できない場合はやはりカラオケボックスが妥協案になるでしょう。


でも書きましたが、思いっきり音が出せる、周りを気にしなくていい、ドリンクバーが使い放題(お店にもよりけりですが)といったメリットがあります。

カラオケボックスなら、お店によってはWi-Fiが無料で使えるところもあります。
タブレット端末があればIMSLPという無料で楽譜を閲覧できるサイトにアクセスして、ベートーヴェンなりブラームスなりメンデルスゾーンなり、いろんな楽譜をダウンロードできます。


自宅で練習したい場合は「ミュート」

駒の部分にミュートというものをはめ込んでしまえば、かなり音を減殺できます。



私はいつも公園にも河原にもカラオケボックスにも行かず、集合住宅の自宅でミュートを使って練習しています。
何年もそんな感じですが、一度もクレームが来たことはありません。ということは相当消音効果が高いようですね。

こんなものを使って本当に練習になるのか? と思うかもしれませんが、『音楽の友』2020年5月号に掲載されている2018年の第87回日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で一位に輝いた荒井里桜さんのインタビュー記事にはこう書かれていました。
家で練習するときは、ずっと消音器(注:ミュートのことですね)を付けて練習していたというエピソードがおもしろい。
「芸高(東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校)に入ったら、それが普通ではないということがわかり、ちょっとびっくりしたのを覚えています。消音器を付けたままで練習すると、音程は聴き取りやすいので、音程は良かったと思いますが、音が鳴っていない感覚に慣れて、本番で音を鳴らそうとしすぎる傾向にあったと思いますね」と振り返る。
ミュートを使っていても上達する人はするという実例ですね。

というわけで私なりのおすすめは、公園や河原よりもカラオケボックス、または自宅でミュートを使いながら練習するということになります。

ちなみにミュートはゴム製と金属製がありますが、私はゴム製を推します。
金属製だと本体に当たったときにキズになりがちですからね・・・。