タルティーニのソナタ! といえば誰もが思い浮かべるのが『悪魔のトリル』。

タルティーニが夢の中で出くわした悪魔が演奏するヴァイオリンの音を楽譜に書き写した・・・、というエピソードで知られており、彼の作品の代表作といえます。

楽譜を見るとたしかに悪魔っぽいというか、難しそうというか・・・、要するに私には弾けません!!(私はこの記事を書いている時点でモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』に取り組んでいます。)

tartini

重音奏法に加えて、トリル祭り!! なんてこったい!!

2つの弦を正確に押さえて音程を正しくとり、なおかつ左指で指板をしっかりと連打して音を明確に響かせなくてはいけません! めんどくさい! しかしヴァイオリニストは音を出すのが仕事なのでとにかく必死の形相で演奏します! ふと客席に目をやると、


お客さんが熟睡中・・・。



難曲を演奏していると、弾く方は必死だが聴く方は寝ていても許されるという理不尽にうち震えるとか、震えないとか・・・。

とはいえ、ここまで難しくないタルティーニのヴァイオリン・ソナタもあります。
『捨てられたディド』です。

italy


アマチュアでもなんとか弾ける、タルティーニのやさしい(?)ソナタ『捨てられたディド』

そもそもディドって何? と思うかもしれません。
ウィキペディアによると、
この作品の題名「捨てられたディド」のディドとはギリシア・ローマ伝説テュロスの女王のことである。ディド女王はアエネアス(トロイアの英雄)と恋に落ちるが、彼は神命によりイタリアに去ってしまい、リビアの王と結婚を迫られた。嘆き悲しんだディドは王宮に火を放ち、その火中に身を投じて死んだという伝説がこの作品の題材である。
トロイア戦争で陥落したトロイから辛くも逃げ出したアエネアスはローマにたどり着き、帝国の礎を打ち立てる・・・、というのがヴェルギリウスの叙事詩『アエネイス』のおおまかな筋書きです。
このことは様々な文芸作品の題材となり、どうやらタルティーニも触発されたようです。

ともあれどんな曲かというと・・・。



物悲しい雰囲気で始まるこの曲。愛を失った女王の心境を物語っているのでしょうか。

曲の出だしは楽譜ではこのように書かれています。

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これならそこまで難しい技術が要求されているわけではありませんね。
私は、コレルリの「ラ・フォリア」を終わらせたあとにこの曲をやることになり、楽譜を買い求めました。

一応、IMSLPでダウンロードができるのですが、私はこの曲は数年ごとに戻ってくることになるだろうと思い、ちゃんとした出版社(リコルディ)の楽譜を購入しました。



アマゾンではカール・フィッシャーの版が販売されているようですね(在庫状況は随時変化します)。

『悪魔のトリル』には手が届かないけれど、タルティーニの曲にチャレンジしてみたいという方にはもってこいの一曲ではないでしょうか。
楽譜を眺めていると、たしかに女王の気持ちがここで昂ぶって、そのあと静まって・・・、というのが想像できるような書かれ方になっており、作品としても充実しています。

『捨てられたディド』をレパートリーにしたプロヴァイオリニスト

もちろんこの曲をレパートリーにしたプロヴァイオリニストもいます。
戦前~高度成長期のころまで活躍した女性ヴァイオリニスト、諏訪根自子は13歳のデビューにあたり、リサイタル最初の1曲として『捨てられたディド』を選んでいます。

また、東京芸術大学教授であった海野義雄も『バロック・ヴァイオリン名曲集』にて、この曲を収録しています。このCDは定価で買っても1,000円程度ですが、ヴィターリの『シャコンヌ』、コレルリの『ラ・フォリア』、エックレスの『ソナタ』、タルティーニの『捨てられたディド』と『悪魔のトリル』を収録しているという、ヴァイオリン学習者にとってはかゆいところに手が届く一枚となっています。私は中古店で偶然見つけました。とてもラッキーだったと思います。


おわりに

というわけであまり知られていないものの、レパートリーに加えておきたい一曲であるタルティーニの『捨てられたディド』。
ぜひチャレンジしていただければと思います。