ヴァイオリニスト・宮本笑里さんが出演するニベア花王のハンドクリーム「アトリックスビューティーチャージ」。

このCMで演奏されているエルガー作曲、「愛の挨拶」について触れておきたいと思います。




宮本笑里さんの演奏するエルガー「愛の挨拶」について

エドワード・エルガー(1857-1934)は、バロック時代のヘンリー・パーセル以後あまり大家を輩出しなかったイギリスにとって、久々の「大作曲家」でした。

そのエルガーが1888年、のちに妻となるキャロライン・アリス・ロバーツに対して送ったのがこの「愛の挨拶」です。

電話の保留音や学校の「掃除の時間」「登校の時間」など何かしらのチャイム代わりにも使われるほど有名なこの曲。
もともとは宮本笑里さんが演奏するようにヴァイオリンとピアノのための小品ではありますが、のちにオーケストラ版などにも編曲されています。

音楽を経験している方なら、結婚式や発表会などで披露することも多い「愛の挨拶」。
結婚を前にして幸せそうなエルガーとアリスの姿が目に浮かぶような、屈託のない素晴らしい作品になっています。

エルガーの「愛の挨拶」のフル演奏はYouTubeで探せば簡単に見つかりますが、五嶋みどりさんによる演奏が日本人ヴァイオリニストのなかでは最も有名なものではないでしょうか。




大英帝国の最後の輝きを思わせるようなエルガーの作風

エルガーといえば他にも『威風堂々』や『エニグマ変奏曲』、2つの交響曲、『チェロ協奏曲』などが知られています。

これらの作品群はいずれも高貴な雰囲気に満ち溢れており、20世紀初頭にはすでに退潮の気配が感じられた誇り高い大英帝国の最後の輝きがこだましているように思えます。

例えば『エニグマ変奏曲』から「ニムロッド」をお聴きください。



「エニグマ」という言葉は「謎」という意味です。
何が謎なのかというと、変奏曲のそれぞれにイニシャルがつけられており、これが「謎」とされていますが、いずれもエルガーの友人たちのことを指していることがすでに判明しています。
エルガー曰く、「もう一つの謎」があるらしいのですが、そもそもその謎とは一体何なのか、21世紀の現在でもはっきりとしたことは分かっていません。

第9変奏の「ニムロッド」ではエルガーの友人であり、楽譜出版社に勤めていた友人イェーガーの人柄を表現しようとしたもの。
現在、イギリスでは偉い人が亡くなったときの追悼曲としても用いられています。

いかがでしょうか。「ニムロッド」には個人の結婚といった市民生活からはやや離れたところにある感情、つまり「愛の挨拶」とはやや異なった感情が込められているのではないでしょうか。

いまひとつの代表作であり、晩年のエルガーが作曲した『チェロ協奏曲』は1919年に初演されています。
この曲では悲嘆に満ちたチェロのうめき声から始まり、胸をかきむしりたくなるような絶望の旋律が延々と続きます。



この曲を聴くと、どうしても翌年にアリスを亡くしたという個人的な悲劇や、1918年に終結した第一次世界大戦では辛くもイギリスは勝利したものの、将来のリーダー層となるはずだった優秀な若者たちを数多く失ってしまったという、広く当時のイギリスで共有されていた喪失感といったものを思い浮かべずにはいられません。

ふたたび、宮本笑里さんの「愛の挨拶」について

宮本笑里さんが演奏する「愛の挨拶」は、彼女がリリースしたCDに収録されています。

また、ご自身のリサイタルでも演奏を披露しており、私も演奏会に足を運んだのでその感想を以下のとおり記事にしています。


クラシック音楽というのは、なぜか若い人が演奏すると若い音になり、70代、80代の人が演奏すると同じ曲でもどことなく懐古的な味わいになってしまう(本当です)という不思議なもの。

宮本笑里さんの「愛の挨拶」は、ご結婚、ご出産というめでたいライフイベントが続いているということを反映してか、まさに現在進行形ともいえる幸せな雰囲気が匂い立つような演奏でした。

TVのスピーカーからは伝わりにくい細かな音のニュアンスを楽しめるのが実演の醍醐味ですから、宮本笑里さんの演奏に興味がある方はぜひコンサートホールで楽しいひとときを過ごして頂ければと思います。