何かを諦める。けっこう苦い現実だったりします。
芥川賞を取りたくて10年以上小説を書いているが、かすりもしなかった。
東大に入りたくて必死で勉強したが、無理だった。
画家になりたくて何枚も絵を描いたが、食べていけないことを自覚した。

だからみんな理由をつけて(あれほどそうなりたくないと思っていた)普通のサラリーマン生活を始めていきがちです。

いやサラリーマンになれるだけまだマシかもしれません。年齢的なことで面接に呼ばれもせず、しかたなくアルバイトで食いつなぐことになったり・・・。

そもそも誰もが一生に何度か、何かを諦めたことがあるはず。
(私みたいに才能もなく、努力の量も足りず、そもそも上手くなりたければ英才教育が当然であるヴァイオリンという楽器を細々と弾き続けている奴もいますが・・・。)

でも諦めるというのは悪いことなのでしょうか?
「株の損切り」のように、むしろリスタートのためのポジティブなものとして考えてはだめなのでしょうか?

aware-1207669__340

諦めること。ポジティブに考えて何が悪い?

結論から書きますと、諦めることは、自分の時間=人生の残り時間を有意義に使うための有意義な決断だと思います。

以下、深堀りしていきます。

大前研一さん、自称「ミスターリセット」

有名経営コンサルタント、大前研一さんは自分のことを「ミスターリセット」と呼んでいます。今では大前研一さんの業績は立派なものですが、いくつかのタイミングで「リセット」をしている(ご本人は「電卓のオールクリアボタンを押す」と言っている)ようです。

日米の大学で原子力工学を学び、日立製作所に就職。しかし原子力発電は日本では「石を投げられる仕事」だと気づき、退職。(リセットその1)

その後、転職エージェントの勧めもあって経営コンサルタント会社・マッキンゼーに就職。様々なコンサルティング案件を手掛け、著作も『企業参謀』『平成維新』など続々とベストセラー。
知名度抜群となり、そのネームバリューと自分のこれまでの経験を活かそうと東京都知事に立候補するも、惨敗。(リセットその2)

都知事選に続いて、参院選でも立候補し落選。自分は政治家に向いていないことを悟り、起業家を育てる学校を設置することを思いつき、今に至る・・・、という経歴です。

このように、大前研一さんの人生の曲がり角には必ず「諦める」ということがありました。

為末大さん『諦める力』

この本はなにかに迷っている人にぜひおすすめしたい本です。頑張れば夢が叶うと思いきや、いつまでたっても叶わないこともあります。それでもこれまで費やした時間を無駄にしたくないから、続けてしまう・・・。そしていつの間にか25歳になり、30歳を過ぎ・・・。
こうした「あるある」なサイクルを断ち切るために、為末大さんは「やめる」を「選ぶ」と再定義しています。

『諦める力』は個人的にはこの1年で読んだ本のなかでもベストといえるほどの内容があります。
この本を読むメリットはいくつかあります。

・諦めること=悪いことではない、と考え方がガラッと変わる

・道は一つではないこと、別の手段で「本当にやりたいこと」へ近づく道があることに気づく

・あなたが輝ける場所は他にもあると思えてくる

人生は可能性を減らしていく過程でもある。年齢を重ねるごとに、なれるものやできることが絞り込まれていく。可能性がなくなっていくと抵抗感を示す人もいるけれど、何かに秀でるには能力の絞り込みが必須で、どんな可能性もあるという状態は、何にも特化できていない状態でもあるのだ。できないことの数が増えるだけ、できることがより深くなる。

こう語る為末大さんも100走から400mハードルへ高校時代に自分の競技種目を変更しています。中学から高校まで思うようにタイムが伸びず、ライバルがどんどん追いついてくるようになり、自分の将来性に不安を感じたことがきっかけだったそうです。

頑張れば夢が叶うという価値観で生きてきた彼にとって、「努力しても100mでトップになれないかもしれない」という思いが胸の中に拡がり、さらには「100mでメダルを取るよりも、400mハードルのほうがずっと楽ではないだろうか。むしろそっちのほうがよほど現実味がある」という考えになっていったそうです。

この決断は大当たり。為末大さんは『諦める力』の文庫版が発売された2018年9月時点は400mハードルの日本記録保持者。100mを諦めたからこそ辿りついた実績といえるでしょう。

株の損切りという言葉がある

株式投資の世界でも「損切り」という言葉があります。
損失を最小限にとどめるために、損失額の少ない段階で株を処分すると言う意味です。株式投資の世界だけでなく、私たちの身の回りでもよく経験する事柄です。

家の修繕、雨漏りがひどくならないうちに修理をお願いする。風をひいた、早めに医者に行けば、会社を休まずにすむ、といったことです。つまり、ひどくならないうちに早めに対応するということです。

実は、株式投資の世界では、この損切りができるかどうかが、利益を上げるための最大のポイントなのです。損切りができず、投資資金をなくして、株式市場から撤退する人が大勢います。

株の世界でなぜ損切りが重要かというと、株価は常に変動し、損をすることもあれば利益を上げることもあるからです。「損をしてもいつかは回復するだろう」「今、株は値下がりしているが、そのうち値上がりするだろう」といった投資家の期待心理です。
(https://www.k-zone.co.jp/td/studies/sell_1より)

たしかに持ち続けていればいつかは株価が回復して、黒字転換! するかもしれませんが、実際にはそうならないことのほうが多いです。
いつまでも塩漬けにして、別のことに使うことができたはずのお金を眠らせたままにしておく・・・。これは投資効率としては褒められたものではありませんから、失敗を失敗と認め、「だめだこりゃ」と諦めて、損切りしてしまうほうが結果的にはトクなわけです。

おわりに

このように、諦めるということはネガティブなものではなく、再出発のための大事な決断だと言えるでしょう。
この記事のタイトルでも問いかけたように、諦めるということにかっこいい言い方はないのでしょうか。

私なりに言い方を考えるとしたら・・・、やはり「諦める」は再出発=リスタートだと思います。

自分の力量や適性を見極め、自分の「いま」をきちんと把握し、またやり直す。
倒れてもまた立ち上がるロッキーのようなかっこよさがここにはあると思います。

どうか何かに迷っている皆様、「諦める」ということも選択肢のひとつとお考えください。