2019年9月28日、NHKの朝ドラ『なつぞら』が最終回を迎えました。
平均視聴率はおよそ20%と大人気のうちに放送を終えることになり、毎日何百万という人が三村(のち下山)茜=渡辺麻友さんを見ていたということは非常に喜ばしいことです。
いい作品に巡り会えた・・・。すべての回を観終わった今、そう思っています。
『なつぞら』の三村茜=渡辺麻友さんを振り返る
『なつぞら』はヒロイン・奥原なつが北海道開拓第一世代の柴田泰樹の開拓者精神を受け継ぎ、東洋動画というアニメーション制作会社でアニメーターとして戦後日本の様々なアニメづくりに励むという作品。
三村茜は奥原なつの同僚であり、絵を描くのが大好きな、おっとりとした女の子という設定。繊細なタッチが持ち味だということになっています。
私はこの設定を知ったときに「ほとんど素の渡辺麻友さんに近いじゃないか!」と思いました。
配役の選定にあたってはオーディションがあったはずですが、キャラクター設定に近い人となりであったことがプラスに働いたのかもしれません。
ドラマの運びとしては
1.東洋動画の採用試験でなつと一緒になる
2.アニメーターとして働き始める。なつとは同じ制作班になる
3.活発ななつと対照的に、日々やや控えめな佇まいで仕事に臨む
4.結婚、のち出産、退職。正社員から契約社員へ雇用形態の転換を社長から持ちかけられたことがきっかけ。
5.保育園に落ちたなつの子供を三村茜が預かることに
6.マコプロダクションに所属、ふたたび東洋動画の元同僚とともにアニメの制作に携わる
が主な流れになります。
『なつぞら』で渡辺麻友さんは何を開拓したのか
「開拓」という言葉はなつと泰樹が使うものですが、同じことが渡辺麻友さんご自身の演技や女優としての経験という面でも言えるのではないでしょうか。
控えめな佇まいでヒロインを静かに引き立てている様子は、台詞がない場面でも背中や首など姿勢が三村茜の性格を表現しているという点で「一見なにも主張していないように見えて、じつは個性を表現している」わけですから、向日的な性格のなつと良い意味で対照性が示されています。
また、渡辺麻友さんといえばAKB=アイドルというイメージを持たれがちですが、「なつぞら」ではアイドルらしさを完全に消した演技に徹しています。これは一登場人物として物語に違和感なく馴染める対応力があることの現れと言えるでしょう。
これまでの渡辺麻友さんは時代劇でのヒロインやヤクルトレディなど、「正統派アイドル」というイメージを引き継ぎつつ、アイドルファンではない層にも「正統派とは何か」「何が期待されている役割か」を伝達していたものでした(と、自分なりに考えています)。
『なつぞら』でもやはり渡辺麻友さんらしいところがあるキャラクターを演じていたわけですから、彼女の人となりを、三村茜という個性を通じて彼女のことをあまり知らないであろう人たちにも広く伝えたという点は「開拓」と言っても良いかと思います。
『なつぞら』は戦後日本の勃興するアニメーション産業を主軸に、北海道と東京における様々な立場の人びとの交わりと人間模様を描いています。
NHKの朝ドラといえばいたずらにサスペンスやスペクタクルに走るような安易なエンターテイメントではなく、日常的な風景を取り扱いながら私達もどこかで胸に抱いたことがあるはずの感情を毎回わずか15分に凝縮している、数十年続いた「老舗」ともいえる上質の作品群です。このなかで重要な登場人物のひとりとして渡辺麻友さんが起用されたことは、今後女優としての道を切り開くうえで大きな足がかりとなったと言えるでしょう。
また、山口智子さんを始めとしてベテラン俳優・女優との共演を果たしていますが、長丁場におよぶ制作期間のなかで学ぶものも多かったことでしょう。
次の作品でこの経験が何らかの形で活かされてくることを期待しています。
そして何年後か、何十年後か・・・、いずれ渡辺麻友さんも後に続く後輩たちへ「何か」を手渡すことになるはずです・・・。
FCの休止とこれからへの展望とは
他方でファンクラブ「ダブミー」の休止という出来事もありました。
私も最後のファンイベントに駆けつけましたが、事実上のソロコンサートともいえる内容に、これまでの彼女の積み上げてきたものの大きさとこれからの未来を思い、胸をふくらませました。
AKB時代の曲を嬉しそうに歌う表情(私はたまたまかなり前方にいたので顔がよく見えたのです)からは、青春のすべてをアイドルという特殊な職業として過ごしたことへの確かな誇りが伺われました(そもそも過去を振り返りたくないならば、こういうセットリストではないはず)し、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の曲「On my own」を歌っていた点は特筆すべきことでした。
「On my own」は「少女エポニーヌが革命を志す青年マリウスを思って歌う」という内容です。
ところがこのマリウスはコゼットという女性に恋をしています。叶わぬ想いと知りつつも、エポニーヌはマリウスが笑顔になってほしいばかりにコゼットとの恋を応援するという切ない立場です。
ミュージカルの歌であるからには「楽譜に書かれていることを正確に音にする」ことは最低限の前提として、「キャラクターを演じる」ことを通じて「楽譜に書かれて『いない』こと」を音にする=音符に命を吹き込むことが求められます。(私自身もヴァイオリンを弾いているので日々実感しているのですが、こういうことができないとそれは「音楽」ではなく、「ただ音が鳴っているだけ」になってしまうのです。)
もちろんたとえアイドルの曲でも歌い方によってガラリと表情を変えることがあります。
たとえば「初日」。市販の音源と、渡辺麻友さんがさいたまスーパーアリーナの卒業コンサート冒頭で歌ったときの映像をぜひ比較してみてください。
前者はキズのないごく普通の歌い方であるのに対し、後者は確かに声がゆれたり、言葉に詰まったりといった欠点があるものの、歌には渡辺麻友さんが歩んできた道のりが思い浮かぶような深い情感に満ちあふれているではありませんか!
話を「On my own」に戻します。
この曲は本田美奈子.さんや新妻聖子さんなどがレパートリーとしており、歌えば何かと比較されがちです。そのことは十分承知なはずでこの曲をこのタイミングで歌う点には、渡辺麻友さんのミュージカルへの強い愛着が感じられました。
歌そのものは歌い慣れた「夢見る人は生きづらい」と比べるとメロディの流れにやや生硬なところがなくはなかったものの、チャレンジを繰り返して前に進もうとする姿を見せることで私達の背中を押すのがアイドルの一つのあるべき姿であるとするならば、この歌を披露したことは、「アイドル」は卒業してもその根幹となる心構えは彼女の心のなかで何一つ変わっていない、静かな闘争心ともいえるでしょう。
今後ミュージカルにも出演が期待される彼女であってみれば、歌唱力にますます磨きをかけてチャンスをものにして頂きたいと心から想いました。
ちなみにエポニーヌとマリウスの関係はやがて・・・。
「On my own」という歌を含め、この作品が気になる方は映画版『レ・ミゼラブル』が手軽に見られるのでおすすめです。(映画館で見たときは上映後に拍手が起こるほどの名作でした。映画館で拍手を聞くのは私の経験では『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』上映初日と『レミゼ』だけでした。)
FC休止の理由とは
ファンイベントの後半で渡辺麻友さんご自身の口からFC休止の背景について説明がありました。
クローズド環境でのイベントでしたので内容について多くを書くことは差し控えたいのですが、もともとの彼女の性格ゆえにFCを組織することに必ずしも積極的ではなかったのこと。
自分のプライベートを見せることにためらいがあることはSNSへの投稿数からも推測されますが、プライベート=舞台に乗らない部分=本来見せるべきコンテンツではないと捉えていた――と考えればストイックで常に完璧を求めようとする彼女の人となりとも符号します。
私としてもFC休止は悲しいですが、彼女の考えを尊重し今後はTVや劇場の舞台に立つ姿を追い続けてゆきたいと思います。
渡辺麻友さんの今後の展望について
秋に「UTAGE!」の放送が決定しており、またアシスタントとして番組に登場するようです。
しかし願わくば演劇やミュージカルなど生の演技を芸術の秋にでもじっくりと鑑賞したい・・・。そう思っています。
実際問題、私もただの一ファンでしかなく直接的に彼女のためにできることは何一つありませんが、渡辺麻友さんを応援する多くの方とともに彼女のこれからをしっかりと見届けたいと思います。
*本記事で「・・・と思われます」のような文章が複数ありますが、あくまでも私が知っている限りの事実関係から判断した、私なりの見解です。この点ご容赦ください。
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