「ブザンソン国際指揮者コンクール」で、日本人女性の沖澤のどかさんが1位を獲得したというニュース。

このコンクールでは小澤征爾さん、佐渡裕さんがかつてやはり1位になったことがあります。
『のだめカンタービレ』でも千秋先輩が挑戦したコンクールも、きっとこれをモデルにしたものと思われます。

そもそも指揮者というのは、オーケストラという数十人がかりのプロ集団をまとめるリーダー。
大変な重責ですし、不勉強だとオーケストラの団員に内心軽蔑されて演奏がギクシャクしたり。
反面、ヘルベルト・フォン・カラヤンのようなカリスマ性ある指揮者が指揮台に立つとそれだけで音楽がガラッと変わったり・・・。

テクニックだけではなくその人の人間性までが音楽に現れてしまうという、おそらくAIに代替されることがないであろう職業です。

さて沖澤のどかさんが1位になったブザンソン国際指揮者コンクールですが、一体どんな課題が出されたのでしょうか? 調べてみました。

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そもそも指揮者自体、世の中に少ない

沖澤のどかさんは東京藝術大学の出身ですが、この大学に指揮科という学科が設置されています。
定員は・・・。


2名。



たったの2名です。
器楽科は98名、声楽科54名、作曲科15名・・・。これらと比べると、ものすごく少ない人数だということが分かります。
たしかにオーケストラを結成するのに数十人は必要ですが指揮者は1人で済みますからね・・・。

ブザンソン国際指揮者コンクールの課題とは

佐渡裕さんの著作『僕はいかにして指揮者になったのか』ではご自身がコンクールにチャレンジしたときの厳しい選考過程を回想しています。

・一次審査から最終審査まで、5回の試験がある。

・課題曲は何十曲もある。

・世界中から出願があり、書類審査で30名に絞られた。

・そこから一次審査で半分に絞る。(この時の課題曲はバルトーク『2台のピアノと打楽器のためのソナタ』を指揮することだった。)

・二次試験は間違い探し。5曲ある課題曲から指定された1曲を指揮。制限時間内にオーケストラの間違いを指摘する。「シャープが抜け落ちてる」「ティンパニが叩いてない」など。この二次試験から一般公開される。(『のだめカンタービレ』でもこういうシーンがありましたね。)

・三次試験は管弦楽曲を指揮。ただし弦楽器の弓使いを指示すること。(運弓が変わると音楽の雰囲気も変わるので、そういうセンスの有無を審査しているらしい。)

・四次試験はドビュッシー、ラヴェルの曲を指揮。フランスのコンクールだけに、フランスを代表する作曲家の作品に対する理解力を審査。

・最終審査は協奏曲、交響詩、世界初演の曲の3つを指揮。

ものすごい長丁場で、しかも進めば進むほど重い内容になっています!

豪快な指揮で知られる佐渡裕さんも、この時ばかりはさすがに最終審査前のプレッシャーでパニックになってしまいました。
喉が乾けばミネラルウォーターを何リットルもがぶ飲みし、お腹が空けば手当たり次第に山ほど食べた。腹が減っているときなどステーキを三キロは食べられる僕が、もどしてしまうほど食べ続けたのである。

(ホテルの)部屋が片付いているのさえ不満で、ゴミは散らかしたまま、椅子やゴミ箱もひっくり返した。着ていたシャツやパンツを脱いで思い切り壁にぶつけ、残り物のハムやチーズまで天井に投げつけ、部屋の中を手当り次第に汚していった。
(引用:前掲書)

厳しい試験をくぐり抜けて、最終審査まで辿りついたと思ったら最後のハードルが高くて自暴自棄になってしまったと明かしています。
これほどまでに、指揮者としてデビューすることは厳しい道のりなのです。
コンサートホールで居眠りをしていても許される私達は幸せなのかもしれませんね。

指揮者によって音楽はどれくらい変わるのか

指揮者が違うと音楽も違うの? よく聞かれます。
全然違います。
わかりやすい例をご紹介します。
曲はベートーヴェンの『交響曲第3番変ホ長調 英雄』。



カラヤンの演奏の冒頭10秒でいいので再生していただいて、次にこちらを同じように冒頭10秒だけ再生してみてください。
次の動画はクナッパーツブッシュという指揮者によるもの。



ここまで違うのは本当に極端な例ですが、ふたりとも強烈な個性を備えていたので、こういう結果になっています。

おわりに

女性指揮者というのはまだまだ少なく、国内では松尾葉子さん、西本智実さんくらいしか思い浮かびません。
国外でもマリン・オルソップあたりしか思い浮かびません・・・。
男性がほとんどを占める社会のなかでキャリアを開拓するのはなかなか難しいかもしれませんが、今回のコンクール1位という実績をステップに、沖澤のどかさんもこれからたくさんの演奏会に出演し、成功への道を切り開いていって頂きたいと思います。

追記:調べてみたところ、すでに沖澤のどかさんの国内での演奏会は実施が決まっています。
オーケストラ・アンサンブル金沢と2019年11月7日(木)、こまつ芸術劇場うらら大ホールにてフォーレ の組曲「マスクとベルガマスク」など。
神奈川フィルハーモニー管弦楽団と2020年1月9日(木)、横浜みなとみらいホールにて。曲目は2019年9月22日現在、未定のようです。

チケットはすでに発売されていますのでチケットぴあでご購入できます。

ちなみに、指揮者で音楽がどう変わるのか掘り下げてみたい方は、こちらの本をどうぞ。