NHKの朝ドラ『なつぞら』では東洋動画に勤務するアニメーターの1人として三村茜(渡辺麻友さん)が登場します。

今のところ私は放送第1話~7月22日放送回まで見ています。まずは三村茜さんを演じているときの渡辺麻友さんについて触れておきたいと思います。


昨年は『いつかこの雨がやむ日まで』でヒロインを演じた渡辺麻友さん。幸薄なヒロインの様子をこれでもかと表現していました(その感想はこのブログに第1話~最終回それぞれについて書いています)。

今回はヒロイン奥原なつ(広瀬すずさん)の脇を固める役ということで、「繊細なタッチが得意」という人物を演じています。

大きな眼鏡の奥から相手の表情を伺うようなしぐさといい、グイグイと人の前に進み出るタイプのなつと対照的に一歩退いた雰囲気の出し方、そして肩から首筋にかけての姿勢の作り方が台詞に頼らなくても気持ちを表している点など、いろいろな方法で彼女なりに三村茜という女性を表現していると思います。

その渡辺麻友さんが、ファンクラブを休止するとのこと。
いったいなぜ・・・。

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渡辺麻友さん、ファンクラブ休止の背景を自分なりに整理します

今朝目が覚めていきなりこの報せを知った私は本当に驚きました。まさかこんなことが・・・。

報道によると、
今までのアイドル活動とは異なる仕事をしていく中でファンの皆さまに喜んでいただけるコンテンツの更新やイベントの企画などをすることが困難だという理由でこのような結論に至りました。

ファンクラブ内での会員に向けたブログによると、渡辺は「ファンの皆さんが望んでくれている『まゆゆ』と、今の『渡辺麻友』との間に大きく隔たりがあるのではないかと自分自身の中で悩む日々が続いていました」と葛藤があったことを明かした。
(中略)
渡辺は17年末にグループを卒業後は、舞台「アメリ」で初主演を務めたほか、現在はNHK連続テレビ小説「なつぞら」に出演中と女優業を本格化させており、今後も本腰を入れて専念していくと見られる。

渡辺は「私の勝手ではありますが、自分の気持ちを整理するため、リセットさせていただくこのような決断をさせていただきました」(後略)
(https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201907230000007.htmlより)

すなわち、ファンクラブでのコンテンツはアイドルとしての延長線上的なもの=これまでの活動のカーテンコールのようなものであり、次のステージへ向けて勢いを加速させるにあたってこれまでの姿を乗り越えなくてはならないと思ったということでしょうか。

ストイックで知られる渡辺麻友さん。「私にはなにもない」と述懐することがしばしばあったと伝えられています。
私なりの推測ですが、アイドル卒業後のいくつかのドラマ、舞台から『なつぞら』に至るまでの経験をつうじて「なにか」を掴みつつあるのでしょうか・・・。

『なつぞら』はアニメーション映画制作のお話で、手塚治虫先生のことが作中でも触れられていました。
あるとき手塚治虫先生は、やはり「私にはなにもない」と悩む17歳の少女に向けて次のように語ったことがあります。

ボクが今描いているアニメーションの主人公は、オルガという女の子のロボットです。でもこのロボットが最後には人間の心を持つようになります。真理子ちゃん、このロボットは真理子ちゃんなんですよ。あなたは今まだロボットの女の子です。今からいろんなことを経験して、さまざま感情が芽生えてきます。たとえば悲しみ、喜び、怒り、ジェラシー、そんな複雑な気持ちが生まれて、やっと人間になるのですよ。

自ら進んで、先の見えない道を選びなさい。大学も、いくら両立が大変でもこのまま慶應義塾大学へお進みなさい。二足のワラジを履いた方が身になるんです。ボクも医学とアニメーションの二足のワラジを履いて、良かったと思います。
(千住真理子『ヴァイオリニスト20の哲学』より)

このブログを以前も見てくださった方は、私が(一応)ヴァイオリンを弾いているということはご存知かもしれません。
音楽絡みのことからの引用が多くなり恐縮ですが、このヴァイオリニスト・千住真理子さんも15歳のときに日本音楽コンクールという日本で最も権威ある音楽コンクールで最年少1位の記録を打ち立て、技術面では完璧といえる水準に達したものの、その技術を使って表現できる(したい)ことが何もなく、技術が達者であればあるほどかえって幼い内面が露わになってしまうという葛藤を味わっていたそうです。

そうした悩みの時期に手塚治虫先生と出会い、このように諭されたそうです。

AKB時代は感情を殺していた、卒業後が人間1年生だと語っていた渡辺麻友さんも、今後女優業を加速させるためにこれまでの姿を乗り越えなくてはならないと決意したのでしょうか。それともこれまでの経験から人間的成熟につながる「何か」を実感しつつあるのでしょうか。

女優となってから様々な経験を積んだ今、そのことをはっきりと意識しつつあるとするならば・・・。そして25歳の段階でこの気づきを手にしたとするならば、たとえ短期的にはファンクラブの休止(解散ではなく休止なので、再開の可能性はもちろん完全に否定されたわけではありません)という出来事があったとしても、長期的には彼女の飛躍のきっかけとなるという点で喜ぶべきことなのかもしれません。

アイドルが得ている称賛は、往々にしてその年齢・若さに対してであり、ある程度年を重ねると人々の興味は別の若手に移ってしまうのが常です(神童モーツァルトさえもそのことを理解しておらず、成人してからの求職にあたり大変な苦労を味わいました)。

30歳近くになると当然ながら表現活動にも人間的成熟が期待されますが、アウトプットばかりに費やしてきたがゆえにインプットに欠けたこれまでの人生がその差し障りとなり、お客は40代の中堅と比較し表現の無内容を難詰する・・・。そうして消費された才能は数多くあります。

私は渡辺麻友さんにそうした道をたどって欲しいとは思いませんし、これからも様々な姿を伝えることで私たちが生きてきた道筋を彼女の航跡に重ね合わせるという、きわめて長い楽しみを共有できればと思っています。

今回このような決断となりましたが、あえて月額課金という(言い方が悪いですが)安易なビジネスに背を向けることで彼女なりにファンに対して誠意を見せたのではないかとも思います。

単に(いまの)収益性を追い求めるには自分の将来像に目を背け、現状維持でも良かったはず・・・。
あえてその道を断つことが、長期的にはファンとの絆を強めるとの思いだったのかもしれません。

おわりに

以上は、あくまでも確証が何一つない私なりの推測になります。何か確かな情報がほしいと思ってこの記事をお読みくださった方には恐縮ですが・・・。

今回このような報道を受けて、彼女の正直な生き方に(思えばあの山口真帆さんも渡辺麻友さんの姿に憧れてアイドルを目指したのでした)改めて接した気がします。
個人的には残念な報せにはなりますが、渡辺麻友さんのますますのご活躍を心よりお祈りいたします。