イタリアのバロック時代を代表するヴェネツィアの作曲家、アントニオ・ヴィヴァルディ。

代表作『四季』を始めとして数多くの作品を世に送り出し、今でも世界中で多くの人が彼の音楽に耳を傾けています。

たしかに『四季』ひとつとっても伝統的なアプローチ、古楽器を使ったアプローチ、折衷型のアプローチ、様々な演奏があり、それぞれに美しさがあります。

私自身も『四季』だけで自宅に6枚くらいCDがあります。
ローマ合奏団のもの、ルドルフ・バウムガルトナーとルツェルン弦楽合奏団のもの、川畠成道さんが2005年に収録したもの・・・、と言った具合にお店で見かけるたびに「とりあえず買っとくか」とつい買ってしまい、いつのまにかどんどんCDが溜まっていくのでした・・・。

そのヴィヴァルディを嫌いな人ももちろんいます。
たしかにチャラい感じのメロディが続いたり、楽譜を見ていても、また自分で実際に弾いていても同じ音の羅列で2小節くらい保たせたりと、バッハに比べるとなんだか安っぽいな・・・、と思ってしまうときもあります・・・。

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ヴィヴァルディ嫌いの心理とは

バロック音楽研究の大家・皆川達夫氏もじつはヴィヴァルディが嫌いだったようです。

率直にいってわたくしは、ヴィヴァルディの音楽をあまり好まない。なるほど彼の職人芸のみごとさには感心はするし、バッハが彼の音楽を一生懸命にとりいれようと努力したのもわたくしなりに理解できるのだが、わたくしがいまだかつてヴィヴァルディの音楽に感動したこともないのもまた事実である。
(中略)
第一、わたしにはヴィヴァルディの音楽の品のなさが耐えられないのである。それがテレマンであるのなら、それなりの構成があり、はこび方があって、こちらもそれに対するつき合いようがあろうというものだが、ヴィヴァルディはイタリアのテノール歌手のように底抜けに歌いさわぐだけで、とどまるところを知らない。
(出典:講談社現代新書『バロック音楽』

皆川達夫氏はイタリアの作曲家、ダラピッコラ氏の有名な「ヴィヴァルディは600の作品を作ったのではなく、600回書き換えただけだ」という指摘を援用してこのように語っています。

私がヴィヴァルディを弾いているときに、ああこれは面白いなと思いつつも「なんだかチャラいな」とも感じていたのと同じようなことでしょうか。

ヴィヴァルディの作品にはたしかに一定のパターンがあり(某有名プロデューサーが作詞するアイドルソングの歌詞のドラマ展開がポニーテールの女の子が乗ったバスを追いかけたり快速電車を目で追ったりしがちなのと同じ?)、その繰り返しがかなり目につくのも事実です・・・。

『四季』はいろんな表情を見せてくれる

とはいえ、ヴィヴァルディの代表作『四季』は彼の音楽の中でも抜きん出て有名なだけに、いろんな表情を見せてくれる名作になっています。

こちらは有名な(たぶん音楽の授業で聴かされたのもこの録音のはず)、イ・ムジチ合奏団の演奏。



この演奏は世界的に評判が高く、『四季』の模範演奏として扱われています。(だからイ・ムジチ合奏団は世界中どこに行っても『四季』を演奏する羽目になりました。)

イ・ムジチ合奏団の演奏を、イタリアの古楽合奏団「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」と聴き比べて見てください。(最初の1分だけでも全然違います。)



なんだか鋭角的な演奏ですね・・・。
これは「ヴィヴァルディが生きていた時代の楽器や演奏法を再現してみたらこうなった」式の演奏をしているので現代的な感覚とは若干ずれがあります。
(とはいえ、バロック音楽はこうした手法で演奏するのが最近の流行でもあります。)

おわりに

このように、ヴィヴァルディの作品とくに『四季』はアプローチの仕方でずいぶん違った印象が出てきます。
ヴィヴァルディが嫌いだ! という方はもしかしたら最初に聴いた演奏との相性が悪かったのかもしれません。

ご参考までに、上記動画のCDをご案内いたします。性格のまるで違う演奏だけに、いろいろ聴き比べてみるのも一興です。