平均視聴率が20%をキープしているNHKの朝ドラ『なつぞら』。

物語は折返し地点を過ぎて、なつの妹・千遥が柴田牧場へ姿を現します。

その報せを受けてなつと咲太郎は柴田牧場へ駆けつけるも、すでに千遥はいなくなっていました。

なつと咲太郎は会えなかった寂しさを抱えながらも、柴田家の家族と休日を過ごし、心のあたたまる思い出を胸に東京へまた戻ってゆく・・・。
2019年7月上旬はこのような物語展開になっていました。

私はこの一連の場面を見ながら、台詞のやり取りに非常に感動を覚え、またクスリとしました。

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『なつぞら』のきれいなセリフにしみじみとなる

このドラマは北海道と東京を舞台とし、そこでヒロイン・なつが巡り合う様々な人たちとともにお話が広がってゆきます。
その展開もテンポがよく、15分の放送枠にきっかりと収まる見事なもの。
さらには脚本に書かれた言葉の力と、出演している俳優の台詞を表現する力には特筆すべきものがあると思いました。

たとえば第85話で咲太郎が柴田家の人々と言葉を交わす場面が典型だと思います。
ここでは単に会話をするだけでなく、言葉のやり取りを通じて気持ちが通じ合ってゆく様子が見事に表現されています。
(柴田家の炉端にて)
剛男:咲太郎君、君らをこんな運命にしてしまったのは・・・。私かもしれんな。
咲太郎:そうですよ。
剛男:・・・そうだな。
咲太郎:だから俺は心から感謝してます。
剛男:ありがとう。
富士子:さあ、飲んで。
咲太郎:すいません。
泰樹:お前はここまでよくやったな。よく頑張って生きてきた。この先も胸張って生きればいい。
1分程度の場面ながら、しゃべるときのニュアンスだけでなく言葉を交わすその時の視線の送り方やまばたきといった表情で登場人物の心が伝わってくる、見事なものになっています。

劇作家・井上ひさし氏は「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」という言葉を残しています。

『なつぞら』のこの場面では、深いことをやさしく、深刻ぶらずに表現しているという点で、井上ひさし氏の言葉のこだまが聞こえてくるようではありませんか。

可愛らしさも覗く夕見子節

「なにさ、この家は。女は働いて飯を作り、男は座って飯を待つ。相変わらず遅れてますもね〜」
この言葉とともに札幌から戻ってくる柴田夕見子。

「古い価値観」が柴田家で体現されていることに対して、違和感を隠さず「普通を疑え」と食事をしながら力説します。

そんな話を家族に対して、しかも夕食どきに言うなんて・・・。
大学でボーヴォワールでも読んだのでしょうか? 私は、家族が幸せならそれでいいじゃないかと思ってしまいましたが、学んだことを実践したくて仕方がない(?)様子が伺われ、まるで覚えた言葉をすぐ言ってみたくなる子供のような様子に私はニヤリとなりました。
なんだかハリー・ポッターのハーマイオニーのようです・・・。向学心に燃える大学生ってこんな感じなのでしょうか?

蛇足ながら、賢い夕見子が大学で革マルに勧誘されて「反米闘争が」「天皇制が」などと言い出すというストーリーじゃなくて本当に良かったと思います。別のドラマになっちゃいますからね。

おわりに

このドラマを見ていて感じたのは、さり気なく深いことを伝えているニュアンスの表現力でした。
さらっとした言葉の奥にいろんな感情が込められていて、見ている私達の心を動かします。
極上のコンテンツを作るのに凝ったCGも宇宙人もヒーローもいらない、大切なのは「心」であるということを『なつぞら』が教えてくれているようです。