今から10年以上前のこと。ヴァイオリンの先生からこう言われました。
「ケースの中に除湿剤を入れておくように」
当時大学生だった私は、ああそうかな、たしかに湿気の強い時期って木材に悪い影響を与えそうだもんな・・・。
そう思ってとりあえずドライペットを買ってきてケースの中に放り込んでおきました。
それから何年も経ち、「除湿剤は必要だ」「いや必要ない」と2つの説があることを知ったのです・・・。
ヴァイオリンケースの中に除湿剤は必要だ論
必要だと考える人は、こう主張しています。梅雨どきは湿度が非常に高い。湿度が高いと、響きが悪くなったり、部材が剥がれたりと悪い影響がある。たとえばニカワが剥がれて、隙間ができて異音がすることだってある。たとえば世の中にはこういう商品が売られている。ということは乾燥剤が必要な証だ。
ヴァイオリンケースの中に除湿剤はいらない論
いらないと考えている人はこう主張しています。
どうせ練習のためにケースを開けたり閉めたりする。となると結局その瞬間に部屋の湿度と同じになってしまう。そもそもヴァイオリンケースそのものには大した気密性はない。下手に乾燥剤を入れておくと、入れている部分の周りだけ他の箇所と比べて湿度が低下してしまうというアンバランスを生んでしまう。むしろ練習中の手汗や首まわりの汗のほうが問題だ。それを拭き取らないで放置すると、カビなどの原因になる。
私は2つの説を聞いた
最初に習った先生は必要派でした。
ところが数年後に引っ越しを経験して別の先生に習い始めると、「いや乾燥剤は必要ない」と上記のようなことを言われました。
さらにヴァイオリンを買い替えたときも、そのお店の店員さん(一応「スペシャリスト」という肩書の方でした)は「何も入れないほうがいい」と断言していました。
とはいえ、湿度が高いと本当にヴァイオリンは破損することもある
ヴァイオリニスト・千住真理子さん。
小学生のころ、コンクールでヴィオッティのヴァイオリン協奏曲を演奏することになりました。
ところが本番の日になって控室でケースを開けると、ヴァイオリンが壊れていたのです。
コンクール本選会の当日、楽器ケースから楽器を取り出して音を出した私は、すぐにある異変に気がついた。いつもの音とは別にバコンバコンと異様な音がする。そばにいた母はすぐにその音に気がつくと、一瞬にして顔に緊張が走った。楽器が壊れてしまっていたのである。板と板をつなく膠(にかわ)のようなものが取れてしまったのだ。決して湿度のあるところに置いてはいけないはずのヴァイオリンを、私たちは暑い夏の練習の中で、どうやら湿らせてしまっていたらしい。
(千住真理子『聞いて、ヴァイオリンの詩』より)
こんなことがあったら私ならトラウマになってしまう!!
が、千住真理子さんはこの壊れたヴァイオリンで本選に出場し、見事に2位を獲得。翌年には1位に輝きました。そのことがきっかけで江藤俊哉氏と知り合い、そしてプロへの道をひた走ることになるのです・・・。
で、今の私はどうしているか
今の私は、ケースに除湿剤を入れていません。
ヴァイオリンの買い替えなどで色んなお店を回って店員さんに話を聞いたり、色んな人のヴァイオリンケースをのぞかせてもらった結果、何も入れていない人のほうが(私の見た限り)多数派だからというシンプルな理由です。
それでもやはり家の前に川が流れていて湿度が気になる、といった方については上記のとおり除湿剤をご紹介しておりますので、ご参考になさってください。
いずれにせよ楽器は健康な状態をキープしたいものですね・・・。
コメント