たとえば上野の国立西洋美術館を訪れたとします。
絵画を見ていると、たまにこういうキャプションに出くわします。
Loeser, Firenze (attributed to Lorenzetti); Frederick Mont, New York; Purchased by the NMWA, 1969.
この作品の国立西洋美術館HPの解説はというと・・・。
本作品はフィレンツェのローザー・コレクション旧蔵で、同コレクションではロレンツェッティに帰されていた。しかしエヴェレット・フェイおよびフェデリコ・デーリは、本作品をいわゆる「パルナ」(サン・ジミニャーノ僧院の新約伝壁画を描いた逸名画家)の作としている。また近年では、作者をアヴィニョンにおけるシモーネ・マルティーニ追随者「反逆天使の画家」であるとする説、ニッコロ・ディ・セル・ソッツォ周辺の画家であるとする説も出されており、作者の確定は今後の研究をまつ。(http://collection.nmwa.go.jp/P.1968-0003.htmlより)
要するに作者がはっきりしないときにAttributeという言葉が使われているわけです。
しかし「Attribute」の和訳が「帰属」であるのもややこしいです。
帰属というと、その所有になると理解する人が多いでしょう。
Attributed to William だと、「ウィリアムっていう人が所有している絵画なんだ!」「ってことは、この美術館に寄付してくれたんだ、おかげでみんながこの絵を見られるんだ。ウィリアムさん、優しい!」・・・という風に受け止めてしまいますね・・・。
Attribiuted toをどう理解したらいいか
私の手元にはあるCDがあります。
モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第6番、第7番』。
これはかつてモーツァルトの作品だと思われていたのですが、研究が進むうちにどうやら偽作らしいということになりました。
そこでCDのブックレットには『ヴァイオリン協奏曲第6番』(偽作)のように記載されます。
クラシックのCDの場合、作品名などは日本語だけでなく英語でも併記されることが多いのですが、その偽作の英訳がまさにAttributeなのです。
「本当にモーツァルトの作品なのか怪しい。というかむしろ別人が作った的な香りがプンプンする」
というときにAttributeという言葉が使われています。
こういう事例を参考にすると、美術館でAttributed to Williamなんていうキャプションを見たときには、「一応ウィリアム作だとされているが、偽作の可能性もある」というふうに受け止めておくのがちょうどいいようですね。
ちなみにですが、骨董品とかオールドヴァイオリン(実売価格数百万以上)の世界では偽作というのが横行しています。
ヴァイオリンの場合だと本体のf字孔から覗いているラベルを貼り替えたり、鑑定書が偽造されていたり、表板と裏板がそれぞれヴァイオリンA、ヴァイオリンBから解体されて新たにヴァイオリンCとして組み合わされたものだったり・・・。
販売店も悪意があって偽物を売っているわけではなく、ディーラーから「由緒正しきヴァイオリンでございます」のような偽情報を掴まされたりしていることもあります。
悪質な業者だと偽物と知りつつ売っていることも・・・。
ある程度良心的なお店なら、Attributeのような言葉を使いつつ、「確証こそないものの、一応名匠誰々の作品という可能性がある」という説明で販売していることもあります。
というわけで、Attributeという言葉が出てきたら、「もしかすると本物じゃないかもね」と連想するようにしていただければと思います・・・。
ご参考
人気テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」でおなじみの中島誠之助先生が『ニセモノ師たち』という本を書いています。こちらをご覧いただくと、骨董品のニセモノ売買のことがよくわかります・・・。
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