子供でも大人でも勉強になるTV番組ってあるんでしょうか?

私が誰にでもおすすめしたいTV番組が、NHK『映像の世紀』です。

これは幾つかシリーズがありますが、19世紀末~21世紀初頭までを映像の記録で振り返るというシリーズです。

世界初の映像とされるリュミエール兄弟の作った「映画」から始まり、パリ万博、ビクトリア女王の葬儀、サラエボ事件、第一次世界大戦、戦間期と大不況、ファシズムの台頭と第二次世界大戦。
さらには朝鮮戦争、ベトナム戦争や冷戦、戦後の大衆社会と先進国での高度成長、東南アジアやアフリカ諸国の独立、そして21世紀まで続く民族紛争・・・。

こうした世界史の流れを映像の記録で振り返っているのがNHK『映像の世紀』です。

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子供でも、大人でも勉強になるNHK『映像の世紀』

記念すべき第1回はこのような内容です。
1995年に放送し大きな反響を呼んだシリーズ全11回をデジタルリマスタリングし、鮮明で臨場感あふれる映像によみがえらせた。第1集は、ムービーカメラが誕生して間もない20世紀初頭の世界。パリ万博、ビクトリア女王の葬儀、ロシア革命で処刑されるニコライ2世一家、第1次世界大戦の引き金となったサラエボ事件など、激動の世紀の幕開けをビビッドに描く。ルノアール、モネ、トルストイなど偉人の貴重な映像も登場。
『新・映像の世紀』の「第3集 時代は独裁者を求めた」では、なぜナチスが民衆からあれほどまでに熱狂的に迎え入れられたのかを当時の映像から解き明かしています。ヒトラーの政策は当時大不況からの劇的な脱出という、それ以外のすべてを覆い隠してしまうほどの圧倒的な「正しさ」があったようなのです。
5000万を超える人々が犠牲となった第二次世界大戦の惨劇は、一人の独裁者の狂気だけが生み出したものではない。大恐慌で資本主義に幻滅した人々はファシズムを支持し、世界の企業がドイツを支援した。アメリカのフォード社は、ドイツ軍のトラックを生産。強制収容所の大量の囚人管理を可能にしたのは、アメリカ企業の開発したパンチカードマシンだった。独裁者に未来を託し、世界を地獄に追い込んでしまった人々の物語。
第二次世界大戦後には冷戦に突入し、米ソは直接戦火を交えることはなかったものの、世界中で代理戦争が行われます。
その影にはソ連やアメリカの諜報機関の影がありました。
冷戦時代に東ドイツの秘密警察シュタージが行った諜報活動の映像が公開された。夫婦がお互いに監視し合ったり、親しい隣人を盗撮するなど、人間性破壊のおぞましい映像である。一方、アメリカもCIAの秘密工作によって外国の反米政権を次々に転覆させた。核兵器による恐怖の均衡が続く中、米ソは直接戦うことを避け、世界各地で代理戦争を繰り広げた。世界が核戦争の恐怖におびえ、秘密とうそが覆った狂気の時代を描く。
ソ連のスパイによってアメリカから核兵器の技術が盗み出され、国家の中枢にもソ連に味方するものがいるという恐怖が米政府高官の間で共有されると、国内から共産主義を追放しようという運動が高まります。

米政府が目をつけたのがハリウッドでした。芸能人を槍玉に上げれば国民も注目するだろうという宣伝効果を意識したようです。
自分の周りにいる人物の動向をペラペラと喋り、警察にやけに協力的だった俳優がいました。

彼の名はロナルド・レーガン。のちにFBIのスパイだったことが判明しています。

アメリカもアメリカでベトナムを始めとして各地で諜報活動を行います。
しかしベトナム戦争で敗北すると、まもなくソ連がアフガニスタンに侵攻。
アメリカはソ連軍に歯向かうテロリストを支援しますが、ベトナムとは真逆の立場に追い込まれていました。
そのときアメリカ軍から軍事指導を受けた一人の若者がいました。彼の名はオサマ・ビンラディン・・・。米ソの対立が世界中に憎しみの種を植え付けてしまった瞬間でした。

他方でベトナム戦争のころ大学生だった若者たちは、「親世代のせいでナチスの台頭を許し、核兵器の恐怖が世界にばらまかれた」と考えていたようです。
とすれば、ベトナム反戦運動を始めとする激しいカウンターカルチャー運動も、なぜあれほど盛り上がったのかがすんなりと理解できますね。

『映像の世紀』第10集 「民族の悲劇果てしなく 絶え間ない戦火、さまよう民の慟哭(どうこく)があった」では、冷戦終了後もユーゴスラビアなどで果てしなく続く紛争に焦点を当てています。
冷戦が終結しソ連が崩壊した後、世界に再燃した民族紛争や数々の内戦は、再び膨大な数の難民を生み出している。難民問題は、2度の世界大戦、植民地支配に対する民族運動の勃興、社会主義国家の誕生と衰退などに端を発し、今や最大の課題の一つとなっている。この集は、珍しい20世紀初期の難民の映像を含め、国家に翻弄される人々の絶え間ない民族対立の歴史とそれが生み出す膨大な難民の映像が語る悲劇の歴史を描く。
ユーゴスラビアではチトー亡き後に激しい紛争となり、NATOが軍事介入をするまでに至っています。
ソマリアでは1980年代からこの『映像の世紀』が放映されたときを含め30年以上も内戦が続いていました(2012年に日本はソマリア政府を承認)。

『映像の世紀』を見る順番、どこで見られるか

『映像の世紀』は幾つかシリーズがありますが、見るとしたら制作順に『映像の世紀』→『新・映像の世紀』→『映像の世紀プレミアム』という順序が妥当でしょう。

子供~高校生くらいまでは歴史の勉強になるのはもちろんのこと、そもそも無味乾燥になりがちな歴史の教科書の記述の裏にはこんな出来事があったのだと圧倒的なリアリティを感じ、「勉強することの意味」をしっかりと理解できるでしょう。(というか、これくらいの番組を「面白い」と感じないようであれば、大学レベルの人文系の勉強には興味を持ってついていくことができないはずです。)

大人の方でも「独裁者に熱狂するのは間違っている」とはわかりつつも、なぜ独裁者を支持してしまうのか、その心理や背景まではなかなか気が回らないものです。
ヒトラーの政策のおかげで大不況から脱出でき、数年前はホームレス寸前の状態だったが、今ではマイホームも車も買えるくらいの貯金ができてしまうほどになった(他方、反ユダヤ思想はまだ暴かれていない)・・・というのであれば、いかにも誰もが彼に投票してしまいそうではありませんか。

このような知的な興奮にあふれる番組を見ないのはあまりにももったいない!

ちなみに『映像の世紀』をご覧になるには、NHKオンデマンドまたはU-NEXTで番組が配信されています。
NHKオンデマンドは月額990円(税込み)、U-NEXTは無料トライアルが31日間。その後は月額1,990円ですがNHK以外のコンテンツ(動画および雑誌・書籍)も配信されています。


注:以上の記事の『映像の世紀』についての引用箇所はすべてNHKオンデマンド公式サイトからです。