ヴァイオリニスト・石川綾子さんの最新デジタルアルバム『ANIME CLASSIC 2』が2020年4月15日にリリースされました。

PR TIMESによると、収録曲は次の通り。

1.前前前世/RADWINPS(映画「君の名は。」主題歌)
2.unravel/TK from 凛として時雨(アニメ「東京喰種トーキョーグール」主題歌)
3.光るなら/Goose house(アニメ「四月は君の嘘」より)
4.ひまわりの約束/秦 基博(映画「 STAND BY ME ドラえもん」主題歌)
5.Snow halation/μ’s(アニメ「ラブライブ!」より)
6.名探偵コナン主題曲
7. 人生のメリーゴーランド/「ハウルの動く城」主題歌
8.檄!帝国華撃団<新章>/ゲーム「新サクラ大戦」主題歌
9.Secret base〜君がくれたもの〜/ZONE ( アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」主題歌)
10.Into The Unknown/ディズニー 「アナと雪の女王2 」主題歌
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000012582.htmlより)

ご覧の通り有名アニメで使われた曲がヴァイオリンでカバーされています。
ロック調だったり、アイドルソングだったり、ミュージカルらしいところがあったりと一口にアニメといっても音楽の幅は広いですね。

それを石川綾子さんがヴァイオリンでカバーするとどうなるのか。
私も一応ヴァイオリンを弾いていまして、とはいってもただのアマチュア。どうにかこうにかモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』が演奏できると言った程度です。
とはいえ多少はこの楽器についての知識・経験はあります。私なりの感想は・・・。


ishikawa_ayako

石川綾子さん『ANIME CLASSIC 2』を聴いてみた感想

ヴァイオリンは「楽器の女王」と呼ばれることがあります。
オーケストラのなかでも一番人数が多く、高音域やメロディを受け持つヴァイオリンは、E線を用いての華やかな音色からG線をたっぷりと響かせ渋みのある音を作り出すことができます。

多彩な表現が可能な反面、左手の指づかいや運弓にちょっとでも難があるとすぐにギコギコという地獄のような音色に陥ってしまうというイチかバチかのような気難しさもあります。

私は何度か石川綾子さんの演奏会に足を運び生演奏に接したことがあり、「楽器の女王」たるにふさわしい気品のある音色がコンサートホールに響いていました。

『ANIME CLASSIC 2』でもやはりその印象は同じで、とくに歌の「サビ」の部分での品位ある歌いまわしはもちろん、ところどころで重音奏法やターンをさりげなく用いているあたりにプロの音楽家としての確かな基礎技術の充実がうかがわれます。

「前前前世」から始まるこのアルバム。イントロのややこしいであろう弓使いを軽々と弾きこなすのは、確かな技巧が備わっていることの証(クロイツェルという練習曲を弾いていると、こういう動きをひたすらやらされることがあります)。

「光るなら」では56秒目あたりの音階を一音たりとも隙を見せずに駆け上がっています。こういうところも私のようなアマチュアだとグダグダになってしまいます(音符の長さが平等ではなかったり、強弱にデコボコがあったり)。

「Snow halation」。石川綾子さんはe-onkyoのインタビューでこう語ります。
「Snow halation」は中国でとても人気があり、この曲を演奏すると皆さんが一体となって盛り上がってくださるので中国公演でよく演奏をしている楽曲でした。個人的には、この曲はものすごくヴァイオリンに合っている1曲だと思っており、楽器が一番響くような、鳴る音域で演奏できる曲となっていますので、弾いていてとても楽しいです。
(https://www.e-onkyo.com/news/2766/より)

もともとアイドルが活躍するアニメ「ラブライブ!」の曲であるだけにとくに華やぎを意識して演奏しているのでしょうか。G線で歌詞「不思議だね今の気持ち」に相当する部分を深々と歌い上げ、かと思えばすぐにAメロに移行しおそらくA線を使いつつ少しずつクレッシェンド。作為的なところを感じさせない自然な流れのままにサビへの盛り上げへ向かいます。そして最後ははかなく溶けてゆく雪のようにスーッと音が消えていきます(弓のコントロールが正確でないとこういうことはできません)。

次のトラック『名探偵コナン』のメインテーマはあまりにも有名すぎる曲なだけに演奏にムラがあれば誰もが気づいてしまうはず。
アニメの歌が収録されているなかで、ついつい聴いていると横方向に流れていくメロディばかりに注目しがちですが、ここでは私はアンサンブル=縦の線に注目しました。
伴奏となるベースや金管の音と完全に噛み合っており、そのことが「ギアが噛み合った」ような快感を生んでいます!

最後のトラック「Into the Unkown」。G線(ところどころでD線?)を使って抑揚豊かに歌い上げ、直後にA線~E線へ一気に跳び上がらなければ対応できないようなメロディはヴァイオリニストにとってかなり嫌らしい楽譜であります(アマチュアは音程を外しそうになってビクビクし、挙げ句本当に外します)。曲の最後は複数の弦を同時に弾く重音奏法で締めくくっていますが、この「重音奏法」というのも音程が完全に合っていないと違和感のもとになってしまうもの。この技法をつかってきれいに締めくくっています。

おわりに

自分なりに気になった箇所を、技術的な側面について注目しながら急ぎ足で書きとめました。
こうしていくつかの点に注意して聴いてみると、アニメの曲という親しみやすい作品をヴァイオリンとを通じて私達に楽しんでもらうために、この楽器の持ち味である品位ある音色に加え、一流の技術という絶妙な組み合わせを次々と繰り出している様子が伝わってきました。

この記事を書いている2020年4月現在は新型コロナウイルスの影響によりジャンルを問わずコンサートは軒並み延期、中止となっています。
この状態が好転し、一日でも早く改めて石川綾子さんの生演奏に接する日が来てほしいと思いました。