ヴァイオリニストを目指す若者が必ずチャレンジしなくてはならないのがパガニーニの「24のカプリース」。

ロマン派の鬼才パガニーニは自らの技巧を誇示すべく「カプリース」を作曲。
とくに24番はラフマニノフなど他の作曲家が引用するほど有名なものです。

しかし実際に楽譜を見てみると目が飛び出るような難しさ! 素人には絶対手が(指が)届きません!
それでも東京芸術大学の入試問題(実技試験)に採用されていますから、将来プロになりたいと思っている人は18歳の時点で演奏できなければだめだということです。

「2019年度東京藝術大学音楽学部・別科入学者選抜試験試験内容及び課題曲」にはこうあります。

(B)Paganini:24 Caprices Op.1より第9番ホ長調
(注)すべて暗譜とし,使用する楽譜の版は特に指定しない。時間の都合により一部を省略させることがある。
(注:課題Aは音階です。)

その9番は次のようなもの。




重音奏法が連続する地獄です!!
入試問題とはいえ、こんなの弾ける人っているんでしょうか!? 
・・・、まあ毎年東京芸術大学にも入学者がいるわけですから、ひと握りの弾ける人は弾けるというものなのでしょう・・・。

パガニーニ「24のカプリース」の録音の歴史はわりと最近から

『レコード芸術』誌2019年8月号には相場ひろ氏の寄稿でこのように書かれています。
難曲であるだけに全曲録音の歴史は浅い。まず1940年にオシー・レナルディがフェリシアン・ダヴィッド編曲のピアノ伴奏版で24曲を録音し、その7年後にようやく、ルッジェーロ・リッチがオリジナルの無伴奏版による最初の全曲録音を完成させた。その後も長くスペシャリスト向けのレパートリーとみなされていたけれども、72年のパールマン盤の登場を契機に、広く採り上げられるようになっていった。特にフランク・ペーター・ツィンマーマンや五嶋みどりらの盤が相次いで世に出た80年代後半以降は、若手ヴァイオリニストの登竜門として認知された感がある。
フィギュアスケートや体操、サッカーなどスポーツの世界では年々水準が上がっており、技術的な面で言えば数十年前のオリンピック選手よりも令和時代のトップレベルのアマチュアのほうがおそらく上でしょう。そして令和時代のオリンピック選手は平成初期のそれとは格段の差があります。(たとえば羽生結弦選手など。)

同じことが音楽の世界でも起こっているようで、50年前までは「スペシャリスト向け」でありながらも80年代以後は続々と録音が発売され、どんどん演奏する人が増えていったことがうかがわれます。
ということはヴァイオリン人口全体での演奏レベルは上昇傾向が続いており、音楽大学入学に必要とされる技術もやはり年々上がっていったということでもあるのでしょう・・・。

パガニーニの「24のカプリース」、どれくらい弾ければいいのか?

「誰が」どれくらい弾ければいいのでしょう?
プロのソリストなら当然全曲を暗譜で弾けるべきでしょう。
しかし日本のヴァイオリン人口が推定10万人とされているなかでプロのソリストは数十人。上位0.1%を偏差値でいうなら80に相当します。

東京芸術大学に入学するほどの演奏技術を持っている人をヴァイオリン人口の上位1%と仮定すると偏差値でいうなら73ほどです。
(学力試験では日本一ハードルが高い東京大学理科三類の偏差値が72.5ほどですから、あながち間違いではないと思います。)

ところが、私のヴァイオリンの先生(私も一応ヴァイオリンを弾けます。せいぜいモーツァルトのヴァイオリン協奏曲くらいまでしか弾けませんが・・・。)に言わせると、「東京芸術大学の学生でも全曲を弾ける人は限られる」とのこと。ということは24曲あるうち課題として指定されたいくつかを事前に練習してなんとか弾けるようになっているというものではないかと推測されます。

う~ん、考えれば考えるほど私のように子供の頃から集中的に演奏のための教育を受けていない人がパガニーニを弾くのは実質ムリということを認めざるを得ません・・・。考えるまでもないことなのかもしれませんが・・・。\(^o^)/オワタ

ちなみにですが、CDでどれか一つ名演奏を挙げろと言われたら、私はユリア・フィッシャーのものを選びます。
ここに収録された音のクリアさはまさに21世紀らしさを連想させるクリアなもの。21世紀後半には一体どんなパガニーニ演奏がスタンダードになっているのでしょうか??