日本のヴァイオリン人口はおよそ10万人と言われています。
ヴァイオリニスト服部百音さんを特集したあるTV番組では、「ヴァイオリン人口は10万人、そのうちプロとして活動しているのがおよそ1,000人。さらにその中で世界的に認められている奏者は30人ほど」という説明がありました。

これは多いのか少ないのか・・・。

violin_population

ヴァイオリン人口を少ないと感じる理由

私は岡山県の倉敷市で18歳のときまで育ちましたが、ヴァイオリンを持っている人をまったく見たことがありませんでした。
17歳のときに近所にイオンモールがオープン。その中に出店していた楽器店で初めて実物のヴァイオリンを見ました。
・・・というくらい、周りにヴァイオリンを演奏している人はいませんでした。
そもそも楽器ケースを持って歩いている人すら見かけることはまずありません。

社会人になってから福島県出身の人に「岡山はこうだったけど福島はどうなの」と聞いてみたところ、「誰も周りでヴァイオリンなんてやってなかった」。

こんな状況ならヴァイオリン人口は少ないと感じてしまいますよね。

ヴァイオリン人口を多いと感じる理由

そんな私が進学のために上京してみたところ、大学にはオーケストラがありヴァイオリン経験者がわんさといたのです・・・。なんでこんなにあんな苦労しかない楽器(失礼)をやりたがる人がいるのか・・・。(聞いてみたところ、親にやらされていたという事例多数。)

さらには東京から山梨方面へ延びているJR中央線沿線には駅の数と同じくらいアマチュアオーケストラがありました。
ということはそれだけ経験者がいるということ。

ヴァイオリン人口の大小は要するに都会と地方の差

地方ではヴァイオリンを弾く人が少なく、東京では珍しくもなんともない・・・。
要するに都会と地方の差であろうと思われます。
東京に暮らしているとそんなことは考えもしないのですが、地方都市ではオーケストラ自体がプロ・アマ問わず存在しません。

となると地方では
・「ヴァイオリニスト」として食べていくことができず、
・子供には「そういう楽器がある」「習ってみたい」という気づきが与えられず
・大人も「子供に習わせたい」と思うきっかけもなく
・マーケットが成立していないのでお店もほぼなく
・そういう環境なので音楽文化も育ちにくく
・結局ヴァイオリニストとして食べていけない
という、鶏が先か卵が先かという状態になりがちですね。

「日本のオーケストラの課題と社会的役割」(新井賢治氏)という論文があります。
これによると

東京に9団体、大阪に4団体、名古屋に2団体と大都市に集中している(図表1参照)。また、地方都市の場合でも県庁所在地等比較的規模の大きな都市に所在する傾向にある。さらに、地域による偏在も見られる。日本海側には山形交響楽団とオーケストラ・アンサンブル金沢の2団体しかなく、それ以外は、太平洋側や内陸部に所在している。

地方別では、北海道、中国、九州・沖縄の各地方は1団体、東北地方も2団体しかない。それに対して関東地方には11団体(うち東京都9団体)、近畿地方には6団体(うち大阪府4団体)、北陸・東海地方は3団体(うち愛知県2団体)が集中している。

人口が多く、経済の拠点である東京、大阪、名古屋の三大都市圏にオーケストラが集中していることから、採算に見合う聴衆の確保、運営の裏付けとなる資金の調達しやすさ、音響の良いクラシック音楽専用ホール、人材養成機関である音楽大学等6が、これらの大都市に集中していることが大きな要因であると考えられる。

とあり、短く言うと「オーケストラは都会にあるもの」。
需要のある地域にお金が集まり、人材が集まり、文化が形成されます。
逆に需要のないところには何も集まらないという、経済学でいう「マタイ効果」が成立しているのではないかと思われます。

これは経済学で多く使われている言葉の一つで、新約聖書の一節「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。」(マタイ福音書13章12節)が由来です。
身も蓋もない言い方ですが「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」ということです・・・。

で結局、ヴァイオリン人口は多いか少ないか

私なりの考えとしては、「都会には多い」「地方には少ない」であり、理由としては「ヴァイオリンで食べていけるマーケットがあるかないか」です。

地方出身の私にとってはなんとも残念なお話ですが、この記事を書きながら地方で文化を振興させることの難しさが身にしみてわかってしまいました・・・。