渡辺麻友さんは2012年2月29日つまり8年前の今日ソロデビューを果たしました。

もうそれだけの月日が流れたのかと思うと、非常に深い感慨を覚えます。

記念すべき第1枚目のシングルCDは「シンクロときめき」。



学校に遅刻しそうになる「僕」と、しぐさやセンスが不思議と一致する「君」の恋のはじまりをとらえたこの曲は当時17歳だった渡辺麻友さんにふさわしいソロデビュー曲となりました。

続く2枚めのシングルCDである「大人ジェリービーンズ」でははじめてのキスに心を踊らせ、大人への階段を登り始めた瞬間を歌っています。
1枚めのシングル曲の語り手と2枚めのシングル曲の語り手が同一人物だとは思いにくいですが、少しずつ成長してゆく渡辺麻友さんに歩調を合わせるかのように楽曲がプロデュースされたのではと、私は余計な想像を膨らませてしまいます。


成長を実感する「出逢いの続き」

5枚目のシングルCD「出逢いの続き」。




 私はこの曲の歌詞に渡辺麻友さんの成長と年輪を感じずにはいられません。
最初はただの知り合いなのに 次第に心許しあってく
そんな無意識のプロセス
いつのまにか大事な人になる
「シンクロときめき」では「僕」の心理状態は「好き」にめがけてためらいがなく直線的に進んでいます。この歌詞にはロミオとジュリエットがたった3日で出会いから悲劇まで突き進んでしまったような・・・、そうした若い勢いが感じられます。

ところがわずか数年後の「出逢いの続き」はどうでしょう。
上に引用した歌詞からは出会ってから少しずついろいろな出来事を経験し、やがて惹かれ合ってゆくという、行きつ戻りつしながら高まってゆく様子がうかがわれます。
「シンクロときめき」が直線とするなら、こちらは曲線。
心のひだという点においては「出逢いの続き」が明らかに細やかで、相手への思いやりをも感じさせます。

作詞作曲は渡辺麻友さん自身によるものではないものの、その人の人となりにマッチした曲を歌わなければ違和感が出てしまうものです。(たとえばカラオケで「55歳・部長・男」がさだまさしを歌えば「ああなるほどね」となりますがPerfumeだと「?」と感じてしまうなど。)

少なくとも私は「出逢いの続き」がリリースされたとき、「これは違う」とは感じず、むしろ「人の成長はこうでなくては」と思いました。

渡辺麻友さんの“sea change”

大学で英文学を学んだことがある方ならどこかでsea changeという表現に出くわしたことがあるはずです。
英辞郎on the webによると、
〈古〉海の作用による変化◆シェークスピアの造語で、1610年の「テンペスト(The Tempest)」の第1幕2場で使われた。ファーディナンドの死んだ父が「海の変化」により骨はサンゴに、目は真珠に変えられている(But doth suffer a sea-change)と妖精エアリエルが歌うもの。

〔良い方への〕大転換、180度の転換、著しい変化、大変貌、大変化、完全な様変わり
という説明がなされています。つまりはなにかの経験を経てガラリと変わることの文学的表現です。

「シンクロときめき」から「出逢いの続き」まで、渡辺麻友さんもsea changeとも言える経験をしており、だからこそ「出逢いの続き」のような歌を歌っても違和感がなかったのではないか・・・。
勝手ながら私はこう推測しています。

「シンクロときめき」のころまでの彼女はアニメ・マンガが好きだといった発言をしており、自分がアイドルという職業を選んだのもそうした趣味が背景にあったようです。

ところが少しずつ大島優子さんの後継者と目されるようになり、やがてはAKBというグループ全体の(ということは当時の日本の「アイドル」の代表としての)顔という立場を担うようになり(または周囲が担わせるようになり)、彼女の発言や行動にはアイドルとしてのはっきりとした自覚と決意がみなぎるようになりました。

私なりの推測でしかありませんが、まさにこうした経験が彼女にとってのsea changeであり、人として成熟を促す過程であり、やがては「出逢いの続き」に続く道だったのだと考えています。

やはり次はミュージカルのナンバーを期待したい

以上、かなりの急ぎ足で渡辺麻友さんのシングル曲を足がかりとしつつ、私なりに感じたことをまとめました。
演技の道に惹かれてアイドルから女優になったのですから、私としてはもし次にCDをリリースするとしたらミュージカルのナンバーを収録したものになって欲しいと思っています。

『エリザベート』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ラ・マンチャの男』など世の中にはたくさんのミュージカルがあり(もちろん『アメリ』も)、様々な人間模様が描かれています。(余談ながらミュージカル歌手・新妻聖子さんが十八番としている「ラ・マンチャの男」はぜひ一度実演でお聴きいただければと思います。新妻聖子さんはアイドル曲もお好きなようで、ある日の渋谷でのコンサートでは松田聖子さんの曲を披露していました。)

ミュージカルの曲は単に歌って音程やリズムが合っていればよいというものではなく、台本を読み、歴史に題材を得た作品なら時代背景を咀嚼し、そのうえで「演じる」ことが求められているわけですから、まさに渡辺麻友さんのこれからを占ううえで必聴の一枚になるのではと期待しています。

こうしたレコーディングを行っているとか、リリース計画があるといったような情報はまったくなく単なる私個人の願望にすぎないのですが、どこかのレーベルが企画してくれないものでしょうか・・・。

渡辺麻友さんのソロデビュー記念日に、そんなことを勝手に夢想してしまいました・・・。