映画『すみっコぐらし』。完全にヤられました。

完敗です。

否、感涙です。

映画館で涙を流したのはじつは初めてです。

「泣ける作品らしい」という噂は聞いていました。
しかし本当に私(昭和生まれの男です)が新宿まで足を運んで、泣くことになるとは思いもしませんでした。

正月明け早々にいきなり感情の奇襲攻撃を仕掛けられてしまいました・・・。


neko


キャラクターに共感しやすい映画『すみっコぐらし』

私は予備知識ゼロの状態で見に行きました。
それでも冒頭にキャラクターの紹介があるので問題はありません。

しかもそのキャラクターがアクの強い人(?)たちばかりなので一瞬で覚えられてしまいます・・・。
たとえば「えびふらいのしっぽ」。「かたいからたべのこされた」。
「にせつむり」は「じつはからをかぶったなめくじ」。
「たぴおか」に至っては要するに女子高生とかが「カワイイ~」とか言いながら飲んでいるタピオカミルクティーの飲み残しでカップの底に残された(普通ならそのままゴミ箱に直行する運命の)タピオカなのです。

この作品にはいわゆる「ヒーロー」は登場せず、どこか私たちに似ているのではと思わせる性格の持ち主たちばかり。
だからこそ多くの人の共感を呼んだのかもしれませんね。

真剣な話、例えば遠藤周作の小説(とくにクリスチャンを題材にした作品)には「弱くてせこい登場人物」が現れて様々な葛藤を経験し、その描写を通じて「人間とは何か」という命題が浮かび上がるようになっているのですが、『すみっコぐらし』のキャラクターもどことなく自己肯定感を持ちにくいであろう平均的日本人像に寄せてあえて強さを目立たせない設定にしている(きっとそうであろう)のか、作品全体の雰囲気からは私たちの荒んだ心を優しく包み込むような幸せな気配が感じられます。

あらすじは次の通り。
いつもの喫茶店、いつものすみっこ。
その地下室に隠された、ふしぎな絵本とは・・・?

ある日すみっコたちは、お気に入りのおみせ「喫茶すみっコ」の地下室で、
古くなった一冊のとびだす絵本をみつける。

絵本を眺めていると、突然しかけが動き出し、絵本に吸い込まれてしまうすみっコたち。

絵本の世界で出会ったのは、どこからきたのか、自分がだれなのかもわからない、
ひとりぼっちのひよこ・・・?
「このコのおうちをさがそう!」新しいなかまのために、すみっコたちはひとはだ脱ぐことに。

絵本の世界をめぐる旅の、はじまりはじまり。
(http://sumikkogurashi-movie.com/storyより)

この作品にはキャラクターの声優は存在しません。
ナレーションとキャラクターの吹き出しによって物語は進行します。
親が子に絵本を読み聞かせる情景を意識したのでしょうか? セリフがなくても十分絵の意味するところは伝わってきます。ナレーション+吹き出しとは、味のある表現です。

じつは大人向けの作品?

すみっコたちは絵本のなかで「ももたろう」「マッチ売りの少女」「にんぎょひめ」などの世界を舞台に、ひとりぼっちのひよこがどこから来たのか、仲間や家族はいないのかを探り当てようとします。

彼らの旅の果てに、ひよこが巡り合ったのは・・・。

ここから先の展開は、ストーリーを作り出すプロが知恵を絞って書いたことが伺われるものであり、出会うことと別れること、期待していたことと叶わなかったことなど、ファンタジックな絵柄に託して生きていくうえでの様々な「苦さ」(そして「思いやり」)が表現されています。
終盤~幕切れまでのラストおよそ15分はそれこそ大人が見ても素晴らしい、否大人だからその良さが分かると言える仕上がりになっています。(本当です。)

日本のアニメの成熟に感銘を受けました

『すみっコぐらし』はアニメであり、絵の連続で動きを表現するものですが、では「絵」のもつ表現力とは何でしょうか。
今や日本を代表する漫画家となった荒木飛呂彦先生は、『荒木飛呂彦の漫画術』のなかでこう述べています。
絵の本質的な役割は、見えないものを可視化して伝えることだ、と考えています。描き手はいったい何を伝えたいのか、と言えば、それは愛や友情、正義など目に見えないものであり、見えないものを絵にしないといけないのです。(中略)ドラえもんやミッキーマウス、アンパンマンなどのキャラクターは、親しみやすさ、やさしさといったものを絵で伝えていると言えるでしょう。
『すみっコぐらし』は「ねこ」「ひよこ」といったキャラクターが出てくる時点で子供向けに見えるものの、こうした小動物を通じて立ち上ってくるのは「思いやり」だったり「支え合う同伴者がいることの安らぎ」であったりと、非常に深い内容が込められています。

シンプルな表現の奥にこうした世界を表現する『すみっコぐらし』、そしてこういう作品を生み出すクリエイターたちがいる日本のアニメ産業は非常に成熟していると思います。

映画『すみっコぐらし』は本当に素晴らしい作品です。
まだ見ていない方はぜひご覧いただきたいと思います。