私はクラシック音楽を聴いて20年以上になります。

東京に住み始めて以来、演奏会には足しげく通っています。

ところが、どうしても「このホールはちょっとね」という演奏会場があります。

ズバリ、NHKホールです。

立地的には渋谷駅または原宿駅から徒歩数分のところにありアクセスは至便。
ところがどうにもこうにも、あくまでもTV番組収録を意識している建築であり、オーケストラの演奏会を第一に考えられている設計ではないので、音響的には明らかに東京オペラシティやサントリーホールなどと比べると劣ります。そもそもパイプオルガンが壁際にあるという不思議・・・。(アイドルのコンサートなどで使う紙吹雪がパイプ内に紛れ込まないような配慮だとか。)

1980年代以降、他にもオーチャードホールや東京芸術劇場、横浜みなとみらいホールなど東京や横浜にはたくさんのホールができました。
これらのホールのキャパは2,000人前後。NHKホールは3,600人ほどで、オーケストラが出せる音量と比べると人を詰め込みすぎ・空間が広すぎて音が拡散しがちという印象はぬぐいがたく、新しいホールで過ごす2時間と比べるとどうしても聴覚体験としては厳しいものがあります。

それでもNHK交響楽団の本拠地である以上、このオーケストラの演奏会を聴こうとするとどうしてもNHKホールに足を運ぶことになります。

横に広い設計で、オーケストラの響きは散り気味。3Fの自由席に座ろうものなら、「遠くの方でなにかやってるなぁ」という満たされない2時間を味わうことになります。
お金のない若いうちや、オーケストラを聴いたことがない人ならそれでもいいでしょうけれど、ある程度わかってくると確実に「なんだこの席は」という気分になってきます。

休憩時間中に空いている1F席へ移動してしまう(やってはいけないが、大学時代の私のヴァイオリンの先生や音大生など、私の周りのほとんどの人がやっていた)という裏ワザもありますが、そもそも最初からいい席をゲットできればいいですよね・・・。

ではNHKホールのいい席とはどこにあるのでしょうか?

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私なりの結論、1Fのなるべく前列

オーケストラにはパートバランスというものがあり、金管楽器の音がうるさすぎて弦楽器の音を塗りつぶしてしまったり、逆に繊細な木管楽器が厚い弦の響きに埋もれないように指揮者がきちんと指示をだしています。

この指示が的確であれば、響きが立体的になり、「作曲家はこんな細かい表現を積み重ねていたのか!」という発見をすることができます。

また、後期ロマン派の作品のようにオーケストレーションが分厚い音楽を素晴らしいホールで聴くと、何十人が一度に音を出す音圧を体で感じることができます。

ところがNHKホールの場合は前述のように響きが散り気味でパートバランスがどうしたとか、響きのブレンドが・・・、ということを味わいにくい残念なもの。

結局のところオーケストラの醍醐味を味わうにはベストな環境からは程遠いため、私はNHKホールでは響きの迫力や繊細さを、音が発された瞬間になるべくリアルに味わうことに専念しています。

その観点から言うと、1F席のなるべく前方ということになります。
指揮者がどういう指示を出して、オーケストラがどう反応したのか。それがどう音に現れているか。
こういうことをなるべく丹念にチェックしていくうえでは、1F席のなるべく前方がやはりベスト(そもそも音響的にはベストということはないのですが)となってしまいます。


ホールが音響的にベストでなくても、素晴らしい演奏となることがある

もうそうとう昔の話ですが、ロブロ・フォン・マタチッチという指揮者がいました。

ユーゴスラビア生まれの彼はヨーロッパではあまり高い評価を得られませんでしたが、1965年にNHK交響楽団を指揮するとたちまち楽員からの熱い支持を背景に、いくどもこのオーケストラを指揮することになりました。

中でも語り草となっているのが、1984年に彼が指揮したブルックナーの『交響曲第8番』。
これはNHKホールでの演奏会でしたがCDとしても発売され、彼にしかなしえない硬質のブルックナーとして今なお廃盤となっていません。

もともと高い水準の技術を誇るオーケストラですから、指揮者との相性がピタリとはまるとものすごい演奏をするという好例ですね。
私はマタチッチの演奏を聴くことは年齢的に不可能でしたが、その後スヴェトラーノフという指揮者のもとで素晴らしいチャイコフスキーの『悲愴』を聴くことができました(NHKホールではなくオーチャードホールでしたが・・・)。

演奏面、音響面などハズレ体験も込みで真剣に音に向き合えるのが実演の楽しみですので、多少の音響上の難点には目をつむり、「この1回かぎり」の演奏に真摯に耳を傾けてみたいものです。