ヴァイオリンは普通、左肩とあごの左側で挟み込むようにして構えます。
左手の指で弦を押さえて音程を取り、右手で弓を上下させ、弦をこすることで音が鳴ります。

構造上、右利きの人をかなり意識した仕組みになっています。

ということは、左利きの人がヴァイオリンを弾こうとすると難しくて不利になるのでしょうか?

いや、そんなことはないんじゃないか・・・。というのがこの記事のポイントです。

hidarikiki


左利きで日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で一位を受賞した人もいる

2018年11月26日の毎日新聞(東京夕刊)には、第87回(2018年)日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で一位になった荒井里桜さんのことが記事になっていました。(このブログでも、荒井さんの演奏会に足を運んだ時の感想などを記事化しています。)
バイオリンを始めた頃は鳴かず飛ばずだった。「付属高から東京芸大に入って環境に刺激され、ゆっくりと音楽の扉を開いてきたような気がします」

4年前に全日本学生音楽コンクール(学コン)の東京大会高校の部を制し、昨年は東京音楽コンクールで1位になった。脚光を浴び、演奏会の予定も目白押し。日本音楽コンクールへの出場は「見送る方が無難」だった。「これまで2回連続2次止まり。迷いましたが課題曲のリストを見たら、左利きで比較的指が回る私には有利そう。動物的な勘で参加を決めました」。学業と演奏活動の合間に課題曲をさらう日々。鬼門の第2予選では出番直前に涙が止まらなくなるなど、極限状態が続いた。

本選では、不利とされる1番くじを引いてしまい、最初に登場。難曲中の難曲、ブラームスの協奏曲を選んだ。「人前で弾くのは初めて。危険なかけでしたが、壮大なスケールの中にさまざまな感情が現れては消え、心をかきたてるのです。名演奏をたくさん聴いて、アイデアを取り込みました」。「1番に出て1番になれた」のは「一番好きな曲が助けてくれた」からだ。

余暇にはテニスで汗を流す。「相手とのやりとりが、演奏に似ているかもしれません。『魅了』という言葉を体現できる奏者を目指します」
「これまで2回連続2次止まり。迷いましたが課題曲のリストを見たら、左利きで比較的指が回る私には有利そう。動物的な勘で参加を決めました」と書かれている通り、荒井里桜さんは左利きだそうです。

それでも東京藝術大学に進学し、さらにはヴァイオリニストの登竜門である日本音楽コンクールに出場し1位に輝いています。

「左利きで比較的指が回る」とありますが、一見不利に見えることでもそれを逆手に取って勝ち進んでいったことが伺われます。

有名コンクールで1位を獲得するくらいですから、幼いころから専門的な技術の蓄積を行っていたことは容易に想像できますが、仮に左利きが絶対的に不利だったとしたら、ここまでは来られなかったはず。

つまり左利きだからといって、ヴァイオリンを弾きこなすうえで直ちに不利に直結するものではないと考えられるのではないでしょうか。

手が小さいヴァイオリニストもいる

その他、「手が小さいからヴァイオリン演奏には不利だ」という思い込みもありがちです。

私自身は男ですが身長は155cmと極めて小さく、手も大きくありません。
女性ならもっと手が小さい人がいます(私の先生もそうです)。

他方でパガニーニは手が大きく、音の跳躍などを表現するときに非常に有利だったようです。
彼の作品にはそんな彼の特性を最大限に発揮しようとした痕跡が伺われます。

では手が大きくないと、立派な演奏家になれないのかというと・・・。

じつは「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者であるサラサーテは手が小さいことで知られていました。
ヴァイオリニストの川畠成道さんは、ある時ご自身のリサイタルでこのようなことを語っていました。

「サラサーテは手が小さかったそうですが、そのため作風がパガニーニとは対照的で、どことなく小回りがきくというのか、素早い動きをするような作品がある」

つまりサラサーテも自分の手が小さいことを承知のうえで、そのことによるマイナスの影響を最小限に抑え、逆にプラスに働く要素を最大限に発揮できそうな作品づくりに取り組んでいたものと思われます。

逆転の発想でマイナスがプラスに

このように、左利きだったり手が小さいからといってマイナスに直結するものではないようです。
むしろそうしたことを条件に「それをどう活かすか」という発想をすると、かえってよい結果をもたらすようです。(天然資源のない日本で省エネ技術が発達したようなものでしょうか。)

ヴァイオリンの曲は世の中にたくさんありますから、左利きでも手が小さくても十分対応できる作品がきっとあるはず。
最近ではIMSLPのように楽譜が無料で閲覧できるサイトもありますから、ぜひ自分らしさを表現できる曲を見つけたいですね。

ちなみにこの記事はグラッドウェルの『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』という本を読んで、弱小バスケットボールチームが州大会で優勝したなどの様々な逆転劇のエピソードに触発されたことがきっかけに作成しました。

音楽でもマイナスをプラスに変えられないか・・・、そういう試行錯誤する姿勢は大切にしたいと思いました。