池田理代子先生の代表作『ベルサイユのばら』。この物語では、オスカルがヴァイオリンを演奏するシーンがあります。

私の持っている集英社文庫版の221ページめでは、
「さあ こんどはなにがいい? モーツァルトの最新作をきかせるか?」
というオスカルの台詞があります。

アンドレはオスカルの演奏に耳を傾けながら、少しずつ自分の視力が失われてきていることを自覚します。

文武両道のオスカルですが、ヴァイオリンはどれくらいの腕前なのでしょうか。

宝塚版ではモーツァルトの『ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調』の第2楽章を演奏していますが、ここでは劇場版の台本ではなく、原作の記述に即してある程度推理してみたいと思います。

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オスカルのヴァイオリンの腕前を推測する

「モーツァルトの最新作をきかせるか?」
具体的な推理が可能な台詞はこれと、アンドレがほとんど視力を失ったときの「モーツァルトはお前には役不足」という発言くらいですが、前者の台詞の場面ではオスカルが単独で演奏していることから、少なくともオーケストラの伴奏が必要な協奏曲のソロの抜粋などではなく、室内楽であろうと考えられます。

当時は室内楽でもピアノ(フランス革命前つまり産業革命以前はピアノは完成途上の楽器だったので、実際には「フォルテピアノ」と呼ばれるピアノのひと世代前の、機能が限定される鍵盤楽器)またはクラヴサン(チェンバロとも)が伴奏に用いられていましたが、伴奏者が描かれていないのでこの場面については詳しいことは分かりません。

いずれにせよ、ここで出てくる「モーツァルトの最新作」とは、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの何かを指しているのではないかと思われます。

私自身、ヴァイオリンを何年も弾いており、この記事を書いている2019年11月時点ではモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』に取り組んでいます。
この曲は音楽系の学校(中学、高校)の入試課題曲にも採用されることが多く、たとえば平成29年上野学園高校音楽科の演奏家コースでは「モーツァルトのヴァイオリン協奏曲3、4、5番のうちいずれか一曲、第1楽章を演奏すること」という課題が出されていました。(出典:https://www.uenogakuen.ed.jp/pdf/uenogakuen_ongaku.pdf)

モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』は、大人になってから始めた場合は進度にもよりますが早くて5年、ゆっくりでも7~8年くらい続ければどうにかたどり着くほどの難易度。
ただ、「弾ける」というのと、「第三者がそれを聴いて感動する」のは別物であり、ものすごい隔たりがあります。
かろうじて弾けるようになるまで大人で7年と仮定し、さらに「人に感銘を与えられる程度の技術的安定性」を獲得するためにさらに5年はかかると考えると、12年ほどの日々の鍛錬が必要になります。

話を戻しますが、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタというのは大雑把に言ってこの協奏曲と概ね同程度の難易度のものが多いです。

『ベルサイユのばら』原作ではアンドレがオスカルの演奏に聴きほれている様子が描かれていますから、それだけの技術を獲得できていると仮定すると、上記の計算から「大人が12年ほど集中的にトレーニングをした位」という推測が成り立ちます。

私が今話題にしているシーンは1788年夏ごろのこと。オスカルは1755年12月生まれですから32歳という計算になります。
軍人として、剣術や馬術、戦術指揮などを専門的に学び、教養を身につける一環で語学や音楽を学んでいたと考えると、「子供の頃から20年ほどヴァイオリンを学んでいたが、毎日数時間という密度ではなく、ある程度の休止をはさみながら順調に技術が伸びていった結果、大人が12年程度の集中的トレーニングを行ったのと同程度の技術水準に到達した」ものと思われます。

その腕前は、モーツァルトを弾いて人に感銘を与えているということから、音楽科を設置している高校の入試で求められる水準とほぼ等しいと考えられます。
余談ですが音楽大学の入試では、メンデルスゾーンやチャイコフスキーなどの協奏曲が課題曲として出題されます。

おわりに

以上はあくまでも数少ない証拠から仮定に仮定を積み重ねたものなので、あくまでも個人の見解として読み捨てて頂ければ幸いです。

ちなみに、モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』は、ある在京オーケストラに所属するプロのヴァイオリン奏者に言わせると「この曲にたどり着くまでに9割の人がヴァイオリンを辞めていってしまう」とか。

となるとオスカルは剣術だけでなく、楽器演奏の面でもやはり秀でた素質を備えていたと考えられますね。




追記:この記事を作る過程で、アマゾンで宝塚公演の映像化作品がレンタルできるのを知りました。いやはや、いい時代になりましたね・・・。