為末大さんの著作『諦める力』。

為末大さんは1978年広島県生まれ。男子400メートルハードルの日本記録保持者とされています。
もともと100メートル走の選手でしたが、「自分がこのまま続けてもこの競技で勝ち上がれるとは思えない」「この競技に固執するよりも、400メートルハードルに挑戦したほうがまだ将来性があるのではないか」、このように高校時代に思い悩み、競技を思い切って変更したことが『諦める力』にて明かされています。

そして、「夢を叶える人はごく一握り」ともこの本で公言しています。

今日はこのことについて深堀りしていきたいと思います。

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そもそも夢は叶わないもの

成功と失敗。

世の中にあふれている成功の量と失敗の量を比較すると、こんなふうになるはず。

失敗>>>>>>>>>>成功

すなわち、エジソンやフォードのように成功する人間はごくわずかで、その陰には死屍累々と志を遂げることができなかった人たちが横たわっています。

これはビジネスの世界でもそうですし、私自身もヴァイオリンを弾いているのでこの楽器のお話をさせていただきますと、日本のヴァイオリン人口はおよそ10万人と言われています。

このうちプロが1,000人で、うち世界的に実力を認められているのは30人程度。
地方都市のプロオーケストラに就職できたとしても、楽団の財政事情によっては年収300万円台というケースもざらにあります。
のこり99,000人はこの楽器で食べていくことができません。

そもそもプロになる人なら小学校低学年で演奏できているモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』すら、90%の人はこの曲にたどり着くことなく挫折するだろうと、ある在京オーケストラのヴァイオリン奏者が語っていました。これは厳しい!

話をスポーツの世界に戻しますと、やはりこの世界でも失敗していく人のほうが多いのに成功者にばかり光があたり、バランスが悪いと為末大さんは『諦める力』にて指摘しています。
ほとんどの人にとっては、つらい時期を耐え抜いても成功しないことが多いのだ。現実には一〇人のうち九人が成功せず、たった一人だけうまく行った人が、自分のロジックで語っているに過ぎない。
たしかにオリンピックの金メダリストはたった一人。その裏には何千人というライバルがいたのに、一顧だにされないのが普通です。

「諦めなければ、夢は叶う」
よく言われる言葉です。しかし
諦めなかった人のうち金メダルを取った人はいるけれども、諦めなくて金メダルを取れなかった人はその数千倍いるという数字を冷静に見なければならない。その事実を納得したうえで「自分はどのくらいの確率で勝てる勝負をしているのか」ということを冷静に見なければならない。
のです。

なぜ「夢は叶う」と錯覚してしまうのか

結局のところ、勝者ばかりにスポットライトが当てられ、敗者の言葉はえてして無視されがちだということに尽きます。
「勝てば官軍負ければ賊軍」とはまさにこのこと。
勝者の言葉が「正義」として流通し、「こうしたら勝てた」がいつの間にか「こうすれば勝てる」にスライドしてしまう・・・。そして「確かに〇〇さんの言う通り、こうしたからうまく行ったよ」という人が現れ、いつの間にか「正義」が上書きされて「本当の正義」にパワーアップしてしまう・・・。
こういったところではないでしょうか。

これを世の中では「生存バイアス」と呼んでいます。
「戦争で生き残った人の体験談」が「こうすれば生き残れる」になり、「この投資法を実践したら1億円貯まった」が「こう投資すれば1億円貯まる」になり・・・。

でも実際は「たまたまそれで成功した」だけで、死人に口なしとでも言うのか、「戦死した人の体験談」なんて聞くことができませんし、投資で借金を背負った人はそのことを恥じて自分の失敗を赤裸々に語ろうとはしないでしょう。

こうして「たまたま成功した人の体験談」ばかりが流通し、「諦めなければ夢は叶う」式の美談がまかり通るのではないでしょうか。

それでも夢を叶えるには

それでも夢を叶えるにはどうしたらいいか。
言い換えると、自分が目指すところにたどり着くには、どうしたらいいか。

そもそも「目指すところ」には、その手段でなくてはいけないのでしょうか。その場所でなくてはならない、必然性があるのでしょうか。

為末大さんは、100メートルで勝負できないことを悟り、400メートルの競技へ軸足を移しました。
勝てる見込みの高いフィールドに移ったことで、逆に自分が活躍する土壌を見つけることができました。

このように「夢を叶える」には、いま自分がやっていることに固執するのではなく、道は一つではないこと、手段や進路を変更したとしても構わないことが『諦める力』には示唆されています。

「天は二物を与えず」と言われています。
言い換えると「あなたはこの能力で勝負しなさい」が天の真意であるとも言えます。
その「能力」を発揮する手段は一つではないはず。

『諦める力』を読むと、こうした様々な気づきを与えてくれます。
2019年の個人的にはベストとも言える一冊でしたので、折に触れてブログ記事として取りあげ、気づいたことを文章化することで自分なりの理解を深めていきたいと思います。