2019年10月27日に行われた日本音楽コンクールのバイオリン部門本選。

私も仕事が休みだったので実際に東京オペラシティに本選を聴きに出かけました。

今回も極めてハイレベルな競争となったこのコンクール。
結果は・・・。

10月27日に行われた第88回日本音楽コンクール バイオリン部門本選の結果は次の通りです。(敬称略)

1位  東亮汰
2位  前田妃奈
3位  河井勇人
入選 東條太河

岩谷賞(聴衆賞) 
前田妃奈
(http://blog.mainichi-classic.jp/より)

私も素人ながらにヴァイオリンを弾いており、といっても晩学の悲哀というのか何なのか・・・。よたよたとモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』を弾ける程度です。

あるプロの在京オーケストラのヴァイオリン奏者に言わせると、「アマチュアでモーツァルトのこの曲にたどり着くまでに9割の人が挫折するだろう」とのことですので、まあ『ヴァイオリン協奏曲第3番』を弾けるだけでも悪くはなかろうとは思いますが、子供の頃から徹底的に練習して、名門音楽大学へ進学して、コンクールという熾烈な競争をくぐり抜けて・・・、という人が奏でる音楽は正確さとか盛り込まれた情報量とかでは素人と次元が違う!! と思わざるを得ませんでした!!

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東亮汰さんの演奏について

東さんが演奏したのはブラームスの『ヴァイオリン協奏曲』。昨年一位に輝いた荒井里桜さんもたしか同じ曲を選んでいました。

このコンクールを主催する毎日新聞でも早速記事になっており、
第88回日本音楽コンクール(主催=毎日新聞社・NHK、特別協賛=三井物産、協賛=岩谷産業)の本選会は最終日の27日、東京・初台の東京オペラシティでバイオリン部門を開き、ブラームスの協奏曲に高い品格のある演奏を聴かせた東亮汰(ひがしりょうた)さん(20)=神奈川県出身・桐朋学園大2年=が1位に選ばれた。応募111人の中から3度の予選を通った4人の演奏を野口千代光さん、渡辺玲子さんら9人が審査。渡辺一正さん指揮の東京交響楽団が共演した。
(https://mainichi.jp/classic/articles/20191027/k00/00m/040/210000cより)

東さんの演奏は、最初から最後まで力感みなぎる正統なスタイル(という印象を受けました)。
第1楽章の起伏に富む箇所の描き分けや、カデンツァ~終わりまでの静謐な箇所からどんどん曲が膨らんでゆくところなど、「果たして本当にまだ学生なのだろうか」と客席で聴きながら思ってしまったほどでした。

終演後は「ブラボー」が聞こえるほどの盛り上がりで、全曲を通して弾くと40分はかかる大作を破綻なくまとめきった、確かな安定性の高い技術力が評価されたのでしょうか。

東さんは2019年開催のかながわ音楽コンクールでも入賞を果たし、先日は横浜でコンサートを開いたばかりの模様。神奈川新聞2019年10月7日の記事にはこうあります。
第35回かながわ音楽コンクールの最上位入賞者による「トップコンサート」(神奈川新聞社など主催)が6日、横浜市西区の県立音楽堂で開かれた。
(中略)
東さんは「重厚感のあるオーケストラの中で弾ける」とブラームスの協奏曲を演奏。「まだまだ改善点は多いけど演奏を重ねるごとに『オケと弾く』タイミングがつかめてきた」と振り返った。
(https://www.kanaloco.jp/article/entry-200189.htmlより)

先日も同じ曲を演奏したとのことで、ブラームスには格別の思い入れがあったのでしょうか。
たしかに4大ヴァイオリン協奏曲のなかでもベートーヴェンに比肩する大曲なだけに、一リスナーとしてただ聴いているだけでも充実感は大きいものがありますからね・・・。

前田妃奈さんの演奏も精度が高く、やはり驚く

前田さんが選んだのはプロコフィエフの『ヴァイオリン協奏曲第2番』。
ヴァイオリンを専門的に学んでいる人か、あるいは長年クラシックを聴き込んでいる人でなければ馴染みが薄いであろうこの曲。

親しみやすいメロディが登場するわけでもなく、どちらかといえば20世紀の(当時の)前衛的な響きが多く顔を出すこの作品。

まだ高校2年生(東京音楽大学付属高校とのこと)なのにこの曲を堂々と弾ききるのは並大抵の技ではなく、前田さんがオーケストラと堂々と共演し、正確無比な音を毎秒ごとに繰り出すさまには再び「果たして本当にまだ学生なのだろうか」と思わざるを得ませんでした・・・。

近くの客席からは「ヒラリー・ハーンみたいだ」というつぶやきも聞こえてきました・・・。この感想はさもありなん。ちなみに私が高校2年生のときは、せいぜい英語と世界史が少しだけ得意な、モブキャラ(つまり「その他大勢」)でした・・・。

サッカーしかり、フィギュアスケートしかり、音楽の世界でも毎年レベルが少しずつ上がっているのは分かっていましたが、明らかなその証拠を目の前に見せつけられると、私はただただ唖然とするばかり・・・。

おわりに

このように、コンクール=プロを志す学生のための催しではありながらも極めてハイレベルな内容となっている日本音楽コンクール。
思えばクラシック音楽とは、ベートーヴェンなりブラームスなり当代一流の音楽家が、やはり当時の第一線で活躍していたヴァイオリニストやピアニスト(または作曲者自身)が演奏することを念頭に書かれた作品ばかりであり、そもそもアマチュアが演奏することを想定していないものが数多くあります。

こうした難解な(当時は演奏不能とさえ言われた曲もある)曲を、いまや20歳前後の学生たちが堂々と演奏しているとは・・・。

日本の若手クラシック演奏家の水準を推し量るためには、定期的にこうしたコンクールに通い、自分の目と耳で実感することが大切だと実感しました。


<蛇足>
本選の演奏曲目発表後にチケットを買おうとすると、プレイガイドでは販売が終了しているため東京オペラシティのチケットセンターで購入するか、本選当日に当日券を買うかということになります。

チケットセンターで買おうとして電話するも、「事前にチケットセンターに引き取りに来てください」と言われて私は断念しました(家が遠いので)。

当日券は14:00発売開始でしたので14:00きっかりに当日券売り場に到着すると、すでに80人ほどの行列ができていました。

私の場合は整理券を受け取って、当日券を購入するまでおよそ30分かかりました(当然、立ちっぱなし)。
窓口が一つしかないため、行列の前にいる人がどの座席にするか座席表を前にして迷い始めるとたちまち行列は進まなくなります。
ヒールのある靴を履いている方にとって30分の立ちっぱなしはかなりの苦行だと思いますので、「本選当日は絶対に聴きに行くつもりだ」という方は前もってプレイガイドで購入するか、当日券を狙うにしても発売開始時刻よりもかなり早くにホール入り口に到着しておくのが得策だと思います。