ヴァイオリンの銘器、ストラディヴァリウスやグァルネリ。

これらは18世紀の名職人たちによって製作されたもので、ニューヨークやロンドンのオークションにかけられ、10億円を越える価格で落札されることもあります。

たとえば日本音楽財団が所有していたストラディヴァリウス「レディ・ブラント」は12億円を越える価格で落札されたことがあります。

日本財団は21日、東日本大震災の被災地支援のため、姉妹財団の「日本音楽財団」が所有するバイオリンの名器「ストラディバリウス」を英ロンドンでオークションに出品、1589万4千ドル(約12億7千万円)で落札されたと発表した。

オークション主催者によると、これまでに競売で落札されたストラディバリウスの最高額の4倍以上に当たる価格で、バイオリンの落札価格としては過去最高額。落札者は公表されていない。

日本財団は収益の全額寄付を受けて復興基金を創設。地震や津波で被害を受けた岩手県や宮城県の伝統芸能の支援などに充てる。

バイオリンは1721年に製作され、ほぼ未使用。一時所有していた詩人バイロンの孫娘にちなんで「レディー・ブラント」と名付けられた。日本音楽財団が2008年に購入した。
(https://www.nikkei.com/article/DGXNSSXKC0584_R20C11A6000000/より)

日本のサラリーマンの生涯賃金がおよそ3億円弱と言われていますから、一生働いて「レディ・ブラント」の一部分が買えるか買えないか・・・、といったところまでストラディヴァリウスの価格は高騰しています。

じつはストラディヴァリウスも昔はもっと安い時代がありました。

つまりストラディヴァリウスのようなヴァイオリンの銘器は投資の対象としてかなり優良なのではないでしょうか?

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ヴァイオリンの銘器は投資の対象の対象になるか

日本を代表するヴァイオリンのディーラー、神田侑晃さんの著作『ヴァイオリンの見方・選び方』(2012年版)によると、ストラディヴァリウスとグァルネリの価格の推移としてこのような表を掲載しています。

P.Guarneri 1970年頃:800万  2011年:1億前後
A.Stradivari  1970年頃:3000万  2011年:3億~4億

その他、プレッセンダやガリアーノといった銘器も1970年頃に300万円前後だったものが2011年には3000万~5000万という価格になっていることが記載されています。

このように、価格だけ見るとヴァイオリンの銘器は投資の対象になると言えるでしょう。

ヴァイオリンの銘器は偽物だらけ

ZOZOの前澤友作さんがストラディヴァリウスの「ハンマ」を購入したときもヴァイオリンがらみの記事がとくにネットなどで多くみられました。

曰く、「ヴァイオリンの価格は上がっていくので、投資に向いている」など。

おそらくこの楽器のことを何も知らないライターさんがそういう記事を書いたのでしょう。

実際には、ヴァイオリンの銘器は偽物だらけというのが実情です。
ヴァイオリンのf字孔をのぞくとそこにラベルが貼ってありますが、これは簡単に偽造されたり、貼り替えられたりするものです。極めて精巧な偽造ラベルづくりに血道を上げるディーラーも世の中には実在します。

したがって、"Stradivari"というラベルが貼ってあるからと言ってもストラディヴァリウスである証拠には全くなりません。

由緒正しいヴァイオリンには鑑定書も添付されますが、この鑑定書も「私文書」であり、誰でも作成できます。これをオーソライズする公的機関はありません。国際的な鑑定基準もありません。

「私の見解では、このヴァイオリンは・・・という職人が西暦・・・年に製作したものであると思う」のような書き方がされているのが普通で、「個人の意見」でしかないのです。

したがって、「鑑定書」の信用性の裏付けは「それを書いた人」のこれまでの実績や社会からの評価しかないのです。

こうした背景から、せっかく大枚はたいて高額なヴァイオリンを購入したのに実は偽物だったということはよくあるエピソードです。

このようなリスクを念頭に、どのヴァイオリンが本物かを選び抜くのは、自分が演奏家として銘器を鳴らし切り、その正当な実力を評価できるだけの力があるか、またはディーラーとして正確に鑑定ができるのでない限り難しいと言わざるを得ません。

え、「ヴァイオリニストを雇ってそいつに演奏させて確かめさせればいいだろう」? 価値があるかないか、その肝心要の部分を他人に丸投げするんですか? 自分で確認しないんですか? 愕然・・・。

投機マネーがヴァイオリンの価格を高騰させていくのだろうか

2002年にヴァイオリニストの千住真理子さんがストラディヴァリウス「デュランティ」を個人で購入したことが話題になりました。
当時の推定価格で2~3億円前後ではなかったでしょうか。

購入にあたっては画家と作曲家である二人の兄のバックアップがあり、またローンも組まなくてはならなかったにせよ、曲がりなりにも個人のお金で当時はストラディヴァリウスを手に入れることがギリギリ可能でした。

ところがその後もストラディヴァリウスの相場は上昇を続け、その後「レディ・ブラント」のように10億円を越えるものも現れました。

このように相場がつり上がってしまった背景には、様々な思惑をもったマネーが流れ込んだことが原因ではないかと私は考えています。(詳しい原因は分かりません。)

土地やゴルフ場の会員権は時代によって高騰したり、暴落したりしますが、ヴァイオリンの銘器の取引価格だけは日本のバブル崩壊にも、リーマン・ショックにもびくともしていないこと、これは事実です。

これでは将来有望なヴァイオリニストがストラディヴァリウスやグァルネリの銘器を使うことはままならず、現にメセナ活動に熱心な企業や文化事業を行っている財団法人などが所有する楽器を貸与されて使っているのが実情です。

おわりに

「デュランティ」が千住真理子さんのもとにやって来たのは理由がありました。
前の持ち主である、とあるスイスの大富豪が遺言で「オークションにかけられて投機の対象にしてはならず、ソリストの所有物たるべきこと。実際に演奏に用いられるべきこと」。こう指示していたのです。

こうして遺言を忠実に実行しようとした大富豪に仕えていた執事がディーラーを経由して複数のヴァイオリニストと商談を繰り返し、最終的に千住真理子さんの手に渡りました。

この大富豪のエピソードからは、「投資のためにヴァイオリンを購入したい」という単なる富裕層とはまったく異なる品格というか、世界観が感じられます。

私自身もヴァイオリンを弾く者として、投資のために取引されるのではなく、本来の用途である演奏のためにこそストラディヴァリウスやグァルネリが使われてほしいと切に願っています。


参考文献