2019年8月31日、東京オペラシティにてアジアユースオーケストラと共演したヴァイオリニスト、服部百音さん。
曲はブルッフの『ヴァイオリン協奏曲第1番』でした。

結論から言うと、明らかに世界レベルの素晴らしいソロでした。

私はもともとアジアユースオーケストラを聴きに出かけた(昨年の演奏が良かったため)のですが、グローバルに活躍するソリストの演奏とはどういう水準なのかが本当に分かってしまう演奏でした!

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服部百音さんの経歴について

当日会場入り口で配布されていたパンフレットによると、
1999年生まれ。5歳よりヴァイオリンを始め、6歳で桐朋学園附属子供のための音楽教室に入室。8歳でオーケストラと初共演。
15年(注:2015年)ボリス・ゴールドシュタイン国際ヴァイオリン・コンクール(スイス)でグランプリを受賞。
鈴木亜久里、大谷康子、辰巳明子、ザハール・ブロン各氏に師事。
16年10月デビューCD「ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ワックスマン:カルメン幻想曲」を発表。『レコード芸術』誌特選盤等、高い評価を受けた。
使用楽器は上野製薬株式会社より貸与されているピエトロ・グァルネリ。
現在ザハール・ブロンアカデミー(スイス)に在籍。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに在学中。
とあります。パンフレットから抜き書きしただけですが、これだけでも世界の第一線を走るソリストだということが浮かび上がります。しかもこのブログ記事を書いている時点でまだ20歳・・・。まだまだ成長の余地はいくらでもありそうです!
(ちなみに、『真田丸』などのテーマ音楽を作曲した服部隆之さんはお父様にあたります。)

最近ではサッカーやフィギュアスケートなど、若い人たちの技術水準が20年ほど前と比べて飛躍的に向上しています。
同じことがどうやら音楽の世界でも起こっているようです・・・。


服部百音さんのブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番』

冒頭のドロドロという期待を高まらせるティンパニの音に続いてG線の深い音色、そして一気にE線まで駆け上がるソロの音(下の譜例参照)からしてまず艶と気品があり、しかもすべての音にコントロールが行き届いていています! ここまで研ぎ澄まされたブルッフを聴いたこと、ありません!

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(画像:IMSLPより)

ブルッフといえばメンデルスゾーンやチャイコフスキーの協奏曲にチャレンジする前にほぼ確実に取り組むことになる曲。
音楽大学を受験するなら中学生ごろに(早い人なら小学校高学年?)先生から与えられる曲です。
ということはある程度ヴァイオリンの技術がある人なら非常によく知っている曲のひとつ。

服部さんは当然ながら何度も演奏してきたはずのこの曲を、手垢の一つも見当たらない新鮮な音色で演奏していました。

冒頭のソロだけでなく、曲のすみずみにまで行き届いた共感、そして非の打ち所がない音程感覚といい、どんな姿勢のときも常に弦に対して一定の角度で当てられる弓のコントロールといい、そして25分にも及ぶ全曲をまったく乱れることなく平然と弾いてのける集中力といい、これを一流と言わずしてなんと言うのでしょう?

ブルッフの『ヴァイオリン協奏曲第1番』、じつは第1楽章は「序奏」という位置づけになっています。
つまり作曲家がほんとうに堪能して欲しかったのは、ヴァイオリンとオーケストラがしみじみと歌い交わす第2楽章だったようです。

きらびやかな、ややもすれば機械的陥りがちとも言えるほどにテクニックを磨き上げた人は、逆に深みのあるアダージョは苦手なのかも? と思っていましたがどうやらそれは私の勝手な思い込みだったようです。

私の家にもこの曲のCDは何枚かあり、どれも第2楽章=アダージョの演奏はドイツの森に沈む夕日を思わせる雰囲気を醸し出していました。
この日の服部百音さんのアダージョはさらりとしたシルク調の音色を基調とし、どことなく華やぎもあるといったもの。こういう演奏もあるのかと、ハッとさせられます。

転じて第3楽章は重音奏法がいたる所に顔を出すもの。先程とはガラリと変わり、グァルネリが力感のある音を散りばめます。

演奏終了後にブラヴォーが飛んでいましたが、聴いて明らかに世界水準とわかる演奏ですから、それもそのはずと言えるでしょう。


服部百音さん、アンコールにエルンストとイザイ

アンコールにエルンストの『無伴奏ヴァイオリンのための6つの練習曲』より「夏の名残のバラ」。

ぇ、ブルッフを演奏したあとにこんな難技巧の曲を演奏するの? と思ったのも束の間、パガニーニの曲に引けを取らない難曲を、何のほころびもなく弾いてしまいました。(演奏会が8月31日だったから「夏の名残のバラ」を選んだのでしょうか。)

さらにアンコールは続いて、イザイ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』。
うわぁ、また難しいものを持ってきたなあという気がしました。
難曲のあとに難曲が続くなんて、演奏する側にしてみればトライアスロンのような試練だと思うのですが、この曲も何一つ破綻なく弾ききっていました。
あまりのうまさに、呆然。

おわりに

技術水準で言えば何一つ非の打ち所がないところに到達している服部百音さん。
今にして思えば妖刀村正とかを連想させるほどに、音に冴えがありました。
日々、一体どういう練習メニューなのか・・・。(私は何年もヴァイオリンを弾いていますが、モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』をヨタヨタと鳴らすのがやっとです。)

この日の演奏会入口で渡されたチラシによると2019年11月22日(金)には紀尾井ホールでリサイタルを開く予定になっているとか。

演奏会は一期一会。予定の空いている人はぜひ足を運ぶべきでしょう。

CDも発売されていますが、先に触れたとおり『レコード芸術』でも特選盤となったほか、アマゾンのカスタマーレビューでもやはり高い評価になっています。
うーむ、私も会場で買っておけばサインがもらえたものを・・・。