社会人になりたてのころ、工場で新人研修がありました。

私は某ピアノメーカーに就職し、研修で配属されたのは鍵盤を作る課でした。
その課長が労災が発生したときのことについてこう語っていました。
「人はやってはいけないことをついやりたがる心理がある。旋盤が回ってるから手を入れるなと言うと、逆につい指を差し込んで怪我をしたり・・・」

この話を聞いて思い出したのは、「人は臭いものを匂いたがる法則」でした。これは中学校のときの音楽の先生が「布団の中でおならをしたら、そのままにしておけばいいものをわざわざ布団の中に顔を突っ込んで『臭え!』と思ってしまう」という間抜けエピソードです。

その音楽の先生は当時県内でも有数のピアノの腕を誇ると言われていました(真偽の程は不明)。
でもいつもピンク・レディーがどうしたとか、間抜けな話ばかりしていました・・・。モーツァルトの手紙にうんこの話が満載なのと同じようなものでしょうか?

このように「やってはいけないことをついしたがる心理」というのは、心理学用語で「カリギュラ効果」と言うそうです。

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カリギュラ効果とは

「カリギュラ効果」。
これはローマ皇帝カリギュラにヒントを得た映画「カリギュラ」がもとになっています。

残忍なカリギュラ皇帝を描いたがゆえに描写が過激になり一部地域で上映が禁止されました。
ところがそのことがかえって話題となり、大ヒットしたのです。

このように「見ないほうがいいよ」と言われるとかえって見たくなってしまう心理には普遍性があるようです・・・。


カリギュラ効果は人間の普遍的な心理を描いたのか?

「するな」と言われて逆にやってしまうというのは、実は多くの神話などに見ることができます。

例えば『オルフェオとエウリディーチェ』。ギリシャ神話です。
オルフェオの最愛の妻・エウリディーチェが、結婚式当日、毒蛇にかまれて死んでしまいます。
まさかの悲劇に絶望したオルフェオは、妻にもう一度会いたい一心で黄泉の国へ降りてゆきます。
そしてたどり着いた黄泉の国の王ハデスも彼の演奏する竪琴に感動し、エウリディーチェを返してくれることになった。ただし、地上に帰りつくまで、絶対に振り返って妻を見てはいけないという条件がありました。

まもなく地上に差し掛かるというとき、ついオルフェオは不安になって振り向き・・・、妻は消えてしまうというお話です。

この神話はグルックという作曲家によってオペラにもなっています。
「精霊の踊り」という小品はとても有名ですね。



日本でも同じようなお話があります。亡くなったイザナミを追って黄泉の国を訪れたイザナギは、中を見るなとイザナミに言われたにもかかわらず櫛に火をつけ扉を開けて中を見てしまう、というものです。

「鶴の恩返し」も見るなと言われて逆に覗いてしまうというお話でした。

リヒャルト・ワーグナーのオペラ『ローエングリン』は『白鳥の騎士』というオランダの伝説をモチーフにしています。
こちらでもヒロイン・エルザ姫が計略で窮地に陥ったところを白鳥の騎士によって救われますが、最後の最後で「騎士の名前を尋ねてはいけない」という禁問の戒めを破ってしまいます。
白鳥の騎士は、「わたしはモンサルヴァート城で聖杯を守護する王パルツィヴァルの息子ローエングリンだ」と告げ、エルザはショックのあまり息絶えてしまいます。

このように「するな」と言われたのに結局ついやってしまうというのは世界各地の神話・民話などで確認することができます。
ということは人間の普遍的な性なのでしょうかね・・・。

おわりに

押すな押すなと言われて押してしまうのがダチョウ倶楽部。
たまに見かける「素通り禁止」の看板。
これも「カリギュラ効果」の一種でしょうか?


ご参考:アダージョ・カラヤンというCDに上記「精霊の踊り」の演奏は収録されています。
悲しさと気品が同居する素晴らしい録音になっています。磨き抜かれたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、有名なオペラの旋律をぜひどうぞ。