ワーグナー。ドイツロマン派を代表する偉大な作曲家です。

19世紀後半~20世紀初頭にあって彼の存在はあまりに大きく、楽壇だけでなく当時の社会の様々な面に影響を与えました。

大作『ニーベルングの指環』のほかに『タンホイザー』『ローエングリン』『トリスタンとイゾルデ』など様々な楽劇を残したワーグナーですが、彼の作品は「序曲」や「前奏曲」といった形でオーケストラの演奏会でも頻繁に演奏されます。

ところが、そのワーグナーの管弦楽曲をヴァイオリン1台とピアノに編曲した版が実在します。

しかもとてつもない表現力をもった日本人ヴァイオリニストによって演奏されているCDが巷で普通に販売されているのです・・・。

これは恐ろしい・・・。

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ヴァイオリニスト・佐藤久成さんの演奏するワーグナー


そのCDはこちらになります。


こんなCDが普通に販売されていること自体、日本がいかに(商業的には)クラシック音楽大国であるかがよくわかります・・・。

演奏者の佐藤久成さんですが、CDのライナーノートによるとこう書かれています。

5歳よりピアノ、9歳よりヴァイオリンを始める。東京芸術大学附属音楽高校を経て、東京芸術大学卒業後渡欧。ロームミュージックファンデーション奨学生や特別奨学生として、ドイツ・ザールラント音楽大学、ベルギー・ブリュッセル王立音楽院、イタリア・クレモナ・スタウファー音楽院、ドイツ・ベルリン芸術大学で研鑽を積む。

(中略)

ライフワークとして、数万点に及ぶ数々の道の絶版楽譜を世界中で収集、その知られざる作曲家や忘れられた作品の発掘に力を注ぎ、紹介・初演・レコーディングを積極的に行う。

事実、あまり知られていない作曲家の作品を演奏会で取り上げることがあり、私は指揮者、ブルーノ・ワルターが作曲したヴァイオリン・ソナタを彼の演奏で聴いたことがあります。
もちろん普通にバッハなども演奏していますが、濃厚な味付けと変化球のような表現が特徴で、コンサートに足を運んで損はありません。

ヴァイオリン編曲版のワーグナー。一体どんな作品なのか

19世紀末~20世紀初頭には多くのワグネリアンたちがヴァイオリン編曲版の楽譜を出版していましたが、現在はヴァイオリニストのレパートリーから姿を消してしまい、当時発表された楽譜も現在では絶版になっているようです。(ジット、ウィルヘルミ、ジンガー、シンディングなどが編曲。でも今に名を残しているのはせいぜいウィルヘルミくらいですよね。)

その珍しい楽譜を現代に蘇らせたのが佐藤久成さんというわけです。

肝心の表現はというと・・・。

例えて言うなら「濃厚なボルドーワイン」と言った表現が当たっているかと思います。
『トリスタンとイゾルデ』の「前奏曲」「愛の死」がまさにそうですが、たった1台のヴァイオリンがロマン派の心情を歌う歌う! 分厚いヴィブラート、ところどころで聴かれるポルタメントなど、最近のヴァイオリニストの演奏会ではあまり見られないテクニックが盛り込まれています。

『ローエングリン』の「前奏曲」でも冒頭の静けさから威厳に満ちたフォルティッシモまで、ヴァイオリンってこんなに表現力のある楽器だったのか! と驚かされること間違いなし!

ヴァイオリンを演奏する人なら、誰もが「ワーグナーの作品を自力で弾けたら」などと思ったことはあるはずです。
佐藤久成さんはなんとも弩級の表現力でそのことを実現してしまいました!

一聴して損はないCDになっています!