5年に一度、ポーランドで開催されるショパン・コンクール。正式にはショパン国際ピアノコンクール。世界で最も権威あるピアノのコンクールであり、従ってピアニストを志す世界中の若者たちの登竜門となっています。

ところがそのショパン・コンクールですが、事務局がかなりいい加減なのか、ずさんなミスも見られるとか・・・。

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ショパン・コンクールの出願書類。出願には何が必要なのか。

2020年に開催される第18回ショパンコンクールの出願要項では次の書類が必要となっています。
以下は私なりの訳です。

a)application  form  as  attached  to  the  Rules,  correctly  completed  and  personally  signed  by  the candidate for the Competition,
出願書類は要項に則り正確に記載され、出願者自署のこと。

b)short biographical note (not more than half an A4 page –about 1000 characters),
A4半分で1,000字程度を越えない長さのプロフィール

c)photocopyof an official document indicating date of birth,
生年月日を証明する公的書類のコピー

d)three current  photographs,  including  at  least  one  portrait  photo,  to  be  used  in  Competition publications (electronic version 300–1200 dpi;accepted formats –jpg, gif, bmp, jpeg),
3枚の写真。コンクールのパンフレットなどで使われる少なくとも1枚の写真を含むものとする。(jpg、gif、bmpなどで300~1200dpiの電子版も可とする。)

e)photocopies of musical studies certificates and the most important competition achievements,
主要なコンクールでの成績と、音楽教育を受けたことを証明する書類のコピー

f)documents certifying the candidate’s major artistic activities during the past three years,
出願者の過去3年分の音楽活動を証明する書類

g)two letters of recommendation in support of the Competition application, provided by pedagogues or outstanding music personalities,
指導者や音楽界での卓越した著名人による2通の推薦書

h)video recording of the repertoire of the Competition’s first stage (see § XIII of the Rules); the video image must show the pianist’s hands while playing and the right side of his/her whole figure, filmed with one camera without cuts during the performance of a piece. Volume control in the recording is not allowed. All pieces should be recorded in one place and at one time.
本大会における1次予選の課題曲を録画した映像。
その映像は演奏中のピアニストの手と、右側の顔が分かるように撮影されたもの。
一台のカメラで撮影し、作品の演奏中のカットがないこと。撮影にあたっての音量の編集は認めない。すべての作品を演奏している間の編集は施さないものとする。

i)proof of payment of the application fee of 100 Euro net into the Institute’s account:71 1130 1017 0020 1462 3620 0008SWIFT (BIC): GOSKPLPW.The candidate’s name and the purpose of the payment should be indicated.
協会の口座(71 1130 1017 0020 1462 3620 0008SWIFT (BIC): GOSKPLPW)へ100ユーロを送金したことの証明書類。出願者の名前と送金目的が記載されていること。

ショパン・コンクールで事務局のミス。それでなぜか出願者が失格になった事例も

ところが、『ショパン・コンクール』によると、かつてフランス語版の要項とポーランド語版のそれでは検定料の記載金額が違っており、フランス語の要項に基づいて出願したある日本人がいったん失格になったことがあるとか。

私自身は大学入試関連の仕事に携わったことがありますが、そもそも出願要項で記載ミスがある(しかもきわめて重要な箇所で)ということ自体、ありえないことです。
ましてや事務局のミスで出願者が失格になるなど、日本の常識では考えにくいことです・・・。

日本の場合はこの手の書類は必ず複数回にわたり、複数の職員が校正を行って作成されるのが通常です。(複数で、というのは複数で作業をすることによりヒューマンエラーを防止したり、関係者が不正を起こさないように相互に確認しあうという意味があります。文科省の通達によりそうなっています。)


まず、海外では事務ミスがつきものである

大学入試関連の仕事をする前には楽譜を輸入する仕事をしていたことがあります。
ポーランドが国家事業として編集したショパンの楽譜(当然、ショパン・コンクールでも採用されている)である「ナショナル・エディション」を輸入したこともありました。ところが・・・。

輸入したはいいものの、ページ印刷が鏡写しのように真逆だったことがあります。
「印刷が明らかにおかしい。交換してくれ」
とメールを送ったところ、返信にPDFが添付されてきました。
「こちらが正しい印刷です。これを該当のページに貼り付けてください」

とんでもない回答でした。

さらには注文書をファクスで送っても、そもそも通信回線が安定しないのか届かなかったり・・・。
(「まず#を7回押したら届くんやで」と先輩から謎の裏ワザを教わり、実際にやってみたら届きました。)

イタリアとフランスの出版社もいい加減で、ドイツ(ベーレンライターやブライトコプフ)がまともだったのは国のイメージ通りでした・・・。

そもそもコンクールは採点が難しい

事務局のミス以外でも、『ショパン・コンクール』では技術レベルが拮抗している参加者の演奏を点数として評価することの難しさが繰り返し書かれていました。

NHKで放送されているアニメ『ピアノの森』では才能ある若者たちがコンクールに挑戦する姿が描かれていますが、華やかな舞台の裏では採点をめぐり「ロマンティック派」と「楽譜に忠実派」など様々な考え方が対立したりなど、審査する側でも葛藤があるようです。

2020年のショパン・コンクールではどのようなドラマが生まれるのか、私自身も注目していきたいと思います。


参考文献: