池田信夫氏『失敗の法則』という本には、日本人の失敗パターンが実例に即して書かれています。

例えば電通の過労自殺事件や民主党政権の自壊から戦前の日本軍の失敗まで幅広いテーマを扱い、「なぜ日本が行き詰まったのか」を考察しています。


小さい失敗を許さず、かえって大きな失敗を招く日本人

私なりにはっと気づかされる箇所は次の部分でした。

「小さく儲けて大きく損する」という章のリード文ですが、
タレブ(引用者注:経済学者)は「日本人は小さな失敗を厳しく罰するので、人々は小さくてよく起こる失敗を減らし、大きくてまれな失敗を無視する」と指摘している。(中略)これはアメリカ社会が失敗に寛容でやり直しがきくのと対照的だ。ドナルド・トランプは4回も破産したが、やり直して大統領になった。
とあります。バブル崩壊からその後の不景気に至るまで、プラザ合意、1990年の株価が下がり始めた後も利上げを継続したこと、不良債権問題の先送り、住専問題の処理、三洋証券の破綻と小さな失敗をほどほどに取り繕った挙げ句、結果的に大きく失敗したことがその実例として挙げられています。

また、その場しのぎで穏便に済ませようとするリーダーシップの欠如を優秀な現場が穴埋めしなくてはならない日本陸軍から非効率を長時間労働でカバーする電通、自発的に残業する労働者とそれでも経営者が無能なので収益性がゼロといった実例をまとめ、著者池田信夫氏は、歴史上に見る日本人の失敗パターン(ここまで来るともう伝統芸能?)を「現場主義による部分最適化と誰も決めない「空気」の支配だ」とし「意思決定がボトムアップで部分最適になり、全体を統括する強いリーダーを拒否する。最終決定者がいないので、みんなで打ち合わせして時間をかけて『空気』をつくっていく」と総括しています。

かつてアメリカのフォード政権で国務長官を担ったキッシンジャーは、日本の政治についてこう述べていました。「私は日本の政策を変えさせたいと思い、総理大臣と話し合ったが変わらなかった。外務大臣、大蔵大臣とも話し合ったが何も変わらなかった。マスコミのリーダーとも話し合ったが無駄だった。そしてあることに気づいた。日本では誰も何も決めていない。決める人がいない。だからああいう物事の決まり方になるんだと」

これは「現場主義による部分最適化と誰も決めない『空気』の支配だ」とする池田信夫氏と一脈通ずるものがありそうです。

空気が支配する国、日本

10年ほど前、KYという言葉が流行しました。空気が読めないの略です。
この空気という言葉は、数十年前から今と全く同じ意味で用いられていました。戦艦大和を沖縄へ出撃させた小沢治三郎海軍中将は戦後のインタビューにこう応えています。

「全般の空気よりして、当時も今日も特攻出撃は当然と思う」

空気はまさに集団の雰囲気による支配を意味するものであり、法律や科学による論理的考察の真逆にあるものと言えます。

まとめ

池田信夫氏は、日本の衰退をこうした「空気」の支配や現場が拒否権を持つ日本社会のあり方=暗黙知の陳腐化にあると提唱し、この暗黙知を革新しなくてはならないと述べています。

「空気」を読まないことで初めてイノベーションが起こるわけですから、一見美しいことのように見える「忖度」もインドや中国といった新興国が台頭し日本を追い上げている現代にあっては、じつは足並みをそろえて右肩下がりの道を補強しているだけではないのか――。そう思えてなりませんでした。