毎年1月1日にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏によるニューイヤーコンサートが開かれます。この催しは日本を含め世界中に中継される、オーストリアのローカルかつグローバルな演奏会。

言うまでもなく、アンコールの定番はヨハン・シュトラウスII世のワルツ「美しく青きドナウ」と父ヨハン・シュトラウスI世の「ラデツキー行進曲」。

ブラームスのような硬派な作曲家ですら愛好したというウィンナ・ワルツ。
甘いメロディーの陰にはどことなく哀感が漂い、享楽的な世紀末の空気を偲ばせます。

今日は、「美しく青きドナウ」を始めとするウィンナ・ワルツのおすすめCDについて考えてみたいと思います。

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美しく青きドナウ。ウィンナ・ワルツのおすすめCDは

1.ニューイヤーコンサートから
ニューイヤーコンサートのうち、特に評判が高いものはカルロス・クライバーの1989年の録音です。
クライバーといえばリヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』やベートーヴェンの『交響曲第5番 運命』の名録音で知られていますが、ワルツのような小品を振らせても一流だったようです。
次々と目まぐるしく現れる、気の利いた一品料理の連続には舌を巻くこと間違いなし!

2.スタジオ録音から
ウィリー・ボスコフスキーはウィーン・フィルのコンサートマスターという重責を担うかたわら指揮活動も行っていました。1950年代~70年代までニューイヤー・コンサートの指揮者も務め、現在のニューイヤー・コンサートの礎を築きました。

その彼が録音したものがこちらになります。

オーケストラはウィーン・フィルではなくウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団ですが、こちらも発売されてから何十年もカタログに残り続けている名盤と言えるでしょう。
とにかく正統派な演奏を、という方はこちらをどうぞ。

3.様々な指揮者の演奏を聴き比べられるもの
ウィンナ・ワルツを得意とした指揮者は他にも沢山います。
ヘルベルト・フォン・カラヤン、クレメンス・クラウス、ヨーゼフ・クリップス、最近ではリッカルド・ムーティなど。

このCDでは、カラヤン、クリップス、そして日本ではあまり名前が知られていないものの、戦前~1960年代に南ドイツからウィーン周辺を活動拠点とし、個性溢れる演奏を遺したハンス・クナッパーツブッシュの録音を収めています。

以上3枚のCDをご紹介しましたが、どれも「美しく青きドナウ」を含み、さらに有名どころのワルツは収録されていますので、どれをお求めになってもクオリティの高い演奏がお楽しみ頂けます。

どれか1枚を、と強いて推すならば録音が比較的新しく、ライブ感溢れるクライバーの演奏が良いでしょう。

ヨハン・シュトラウスII世と父ヨハン・シュトラウスI世。父子は犬猿の仲だった

ワルツが流行り始めた19世紀中盤のウィーンは政治的に不安定な時期を迎えていたとされています。
フランス革命からナポレオンの侵攻そして没落。

その後メッテルニヒが旧体制に戻そうとするも失脚。そしてハプスブルク家は数十年後の第一次世界大戦そして帝国の終焉まで、緩やかに没落の道をたどります。

不安を感じた当時のウィーン市民たちは享楽的なワルツに明け暮れた――。そう専門書には書かれています。

その時流に乗じて数々のワルツを書いたヨハン・シュトラウスI世は楽団を結成して様々な舞曲を披露。友人ランナーとともに一世を風靡します。

父の影響を受けた息子シュトラウスII世も音楽家を志しますが、父は息子の才能を恐れたのか、息子を起用しないよう数々のダンスホールに圧力をかけました。

それでも息子は有形無形の圧力を跳ね返し、父が45歳で没すると彼が一躍スターとなり、パリ、ロンドン、さらにはアメリカにまでツアーに出かけました。
彼にちなんだ記念貨幣まで作られたこともあります。
父子の不和がもしかすると名曲の数々を生む土壌となったのかもしれません。

おわりに

ウィーンを訪れると街角の各所からワルツが聞こえてきます。
かつてこの街を訪れた私は甘いメロディとふとした瞬間に訪れる哀しげな和音に、二人の確執そして才能が成し遂げた文化的偉業を思い起こし、「夏草や兵どもが夢の跡」にも似た感慨を覚えました。