突如として芸能界引退を表明した小林麻耶さん。
その彼女が2018年11月11日、『しなくていいがまん』を発表し、生い立ちから現在に至るまでを振り返りました。

その中にはアナウンサーとしての肩書から出発した十数年前から現在にいたるまでの胸中が明かされていました。
この本を読みながら、「ああ、あの時の出来事にはそういう意味があったのか」と、まるでミステリーの種明かしをされているようでもありました。

以下、自分なりの感想を書き留めておきたいと思います。


『しなくていいがまん』

「しなくていいがまん」という仮面をまとった小林麻耶さん

小林麻耶さんは自分を「承認欲求のかたまり」だと評しています。
人の役に立ちたい、人に認めてほしい。そう願う彼女にとって学校は「大好き」な場所だったそうです。習ったとおり覚えていればテストで高得点が取れるという、努力に比例して認められる環境だったからだそうです。

しかし社会に出ると努力がすぐに認められることも少なくなり、空回りしていきました。それでもなお「がんばって役に立ちたい、認められたい」という思いが優先して、ほんとうの自分を押し殺していることにある日気づいてしまいました。

本書のタイトル「しなくていいがまん」とはまさにこの状態のことを言っているようです。

役割を演じることをやめた自分

「何々しなくてはいけない」「何々すべき」といったルールを守り、その中で頑張るというのはいわゆる学校的な価値観です。

ところが「平気なふりをして一人でがんばる」では対応できないことになる日が訪れてしまいました。
そう、妹である小林麻央さんががんに罹ってしまったのでした。

世界一愛している妹が病んでいるという現実は、わたしが抱え切れるような重さではありませんでした。がまんにがまんを重ねた限界だったのか、あってはならないことに、生放送中の本番中に倒れてしまったのです。

病院に搬送された彼女のもとにある友人が駆けつけて、ずっと付き添っていたそうです。
こうした出来事を経て、小林麻耶さんは気づきました。

大切な人には、弱さをさらけ出してもいい。
いいえ、大切な人だからこそ、がまんをしない「ありのままの自分」で正直に向き合うことが、その人を信じることだった。

その後、市川海老蔵さんが小林麻央さんのがんを公表しました。
いたずらに騒がれるだけだろうと思っていたのに、事実は逆のことが起こりました。
いい医者を紹介されたり、参考になる本を教えてくれたり。

小林麻耶さんはこう語ります。
「助けて」と弱みを見せたときに差し出される手は、自分が思うよりたくさんあります。

事実をありのままに語ると、たくさんの愛を受け取ることができた――このことから彼女は世界は思っていたよりもずっと優しいという実感を得ました(これは本当にいい話です!!)。


交際ゼロ日で結婚

マスコミに大きく取り上げられた結婚報道。
このことについても触れています。

この本の最初の原稿が完成したのは2018年5月ごろ。
「たぶん、わたしは一生結婚しないんじゃないかな」
当時はそう思っていたようです。

しかしその直後に、ある男性と知り合い、直感的に「この人だ」とひらめくものがあったと書かれています。
自分の感じる心に従うことが、「しなくていいがまんをせずに生きる」――、そんなふうに今でこそ語る彼女ですが、男性からプロポーズされたときは非常に逡巡したようです。
一度は断りつつも、家に帰って泣いていると本当は嬉しいのに「しなくていいがまん」をしていると気づいたそうです。
そして男性に電話をかけ、「わたしと結婚してください」と告げました。

結婚に向いていないだろうと思っていたのは実は単なる固定観念でしかなかったようです。
結婚してからは帰るべき家があり、夫がいて、思う存分くつろぎ、また泣くこともできました。

芸能界引退も結婚とやはり関連があったようで、家庭を持ったことからの安心感からか逆に体調不良に悩まされるようになったと書かれていました。

本当はテレビの仕事を愛しているのに、もう無理を重ねることができない。
考えた末の結論が「事務所の退社」つまり芸能界引退でした。

私はこの辺りを読みながら、「ああやはり」という思いと「それほどこれまでがまんを重ねていたのか。仕事を辞めてもよいと思えるほど、家庭を持つということは重大なターニングポイントだったのか」と当時の報道を思い出しながら考え込んでしまいました。

妹小林麻央さんへの想い

最愛の妹である小林麻央さんのことも随所で触れられており、ひしひしとたくさんの愛が伝わってきます。「黙ってほほえんでいるだけでまわりを包み込む力をもっていた」という文章からは、本当に惜しい方を亡くしてしまったと、第三者である私でも強く思わざるを得ません。

「進行性のがん」という事実に押し潰されそうになりながらも、小林麻耶さんは「明日が来る保証は、わたしたちの誰にもない」と気付き、来てもいない未来について余計な心配をすることを辞めたと語ります。

私たちも「こうなったらどうしよう」などと思い悩み、結局なにもできないという経験があるはずです。
しかし未来はどうなるか分かりません。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でもありましたよね。

「未来から来た? なら大統領は誰だ?」
「ロナルド・レーガン」
「フン! 俳優じゃないか!!」

そう、未来は誰にも分からないのですから、悪い想像をしてくよくよと思い悩むのはまさに「しなくていいがまん」ですね。

大切な命をどう生きるか

小林麻央さんのことに続けて、小林麻耶さんは「生きる」ことについて真摯な眼差しを向けています。
日本赤十字社の「いのちの授業」の講師を務める彼女は、こう問いかけます。

三週間後に死ぬとしたら、今日何をしますか?

スティーブ・ジョブズは有名な2005年のスタンフォード大学卒業式のスピーチでも同じ趣旨の話をしています。

私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出合ったのです。それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。

自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。

ジョブズもやはりこの時すでにがんの治療を受けていました。

最愛の人を失うという悲しい体験を経て、小林麻耶さんはジョブズと同じように「生きるとは何か」という、私たち全員にとって最も重要な問いにたどり着きました。
そして彼女は、
「人は絶対に死ぬ」このゆるぎない事実があることで、しなくていいがまんのすべてをやめて「いま」をたくましく生きられるのです。
という結論に至っています。

むすび

生い立ちから学生時代の経験、アナウンサーとして見聞きしたこと、最愛の妹との別れ、結婚そして芸能界引退。
こうした様々な出来事を経て、小林麻耶さんは「生きるとは何か」という問いに向き合い、そして自分なりの答えを出しました。
マスコミではよくぶりっ子というキャラで扱われがちな彼女ですが、これまでの人生経験を総括し、生きることへの真摯な眼差しを向けているのが印象的でした。

私自身も「人は絶対に死ぬ」ということを意識し、健康でいられる今の時間を少しでも大切にしつつ暮らしていきたいと思いました。


追記:『しなくていいがまん』は紙の本とスマホでも読めるKindle版の同時発売ですが、紙の本よりもKindleの方が安いようです。私は発売当日に買いましたが、紙の本の定価が1,512円。Kindle版は680円でした。


しなくていいがまん

しなくていいがまん

  • 作者:小林麻耶
  • 出版社:サンマーク出版
  • 発売日: 2018-11-11