東京オペラシティ・コンサートホールで、アジアユースオーケストラの演奏会が開催されました。

これはアジアの27歳までの若手の音楽家により構成されるオーケストラ。

基本、学生中心のオーケストラだろ? 正直どうなの?

・・・と思うかもしれませんが、大変情熱的な演奏で心を動かされました。
本当かよ、と思う方、ぜひ来年足を運んでみてください。

このオーケストラは1987年にヴァイオリニストであるユーディ・メニューインと指揮者のリチャード・パンチャスが設立しました。

中国、香港、台湾、日本、マレーシア、タイ、などなどアジア各国から選抜された若手の演奏家たちが香港での3週間のリハーサルを経て、その後3週間のツアーを行います。

2010年には高松宮殿下記念世界文化賞若手芸術家奨励賞を受賞しています。

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一期一会の演奏に感銘

当日のコンサートプログラムは次のようなもの。

ワーグナー:ニュルンベルクのマイスタージンガーより第1幕への前奏曲
プロコフィエフ:ロメオとジュリエット 第1組曲、第2組曲より抜粋
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
ガーシュウィン:パリのアメリカ人

私は前方の方で聴いていましたが、何よりもまず(自分もヴァイオリンを弾くので)よく整った弦楽器セクションの音に驚かされました。
アマチュアオーケストラの場合、トゥッティ(総奏)の部分で音が濁りがちです。
しかし彼らは当然ながらオーディションをくぐり抜けて選抜されただけのことはあります。

ニュルンベルクのマイスタージンガー第1幕前奏曲でも、続くプロコフィエフのロメオとジュリエット(文芸の世界では「ロミオとジュリエット」と英語読みですが、音楽の世界ではイタリア語読みで「ロメオとジュリエット」。そういう慣例のようです)でも綺麗な弦の響きを堪能できました。
(コンマスの流れるようなソロ、上質のパスタのようなツヤツヤ感!)

休憩をはさんでのラフマニノフ。ピアニストのアンナ・ツィブラエワは明確堅牢なタッチが得意武器なのでしょうか(東京交響楽団とも共演した実績があるようですが、初めて聴いたピアニストなので詳しくは分かりません)。
情緒に流れがちな曲ですが、しっかりとした意思をもって一音一音を弾いている様子が伺われます。

彼女はアンコールにショパンの子犬のワルツとショスタコーヴィチの前奏曲より第10番を演奏しましたが、やはりここでも確実な打鍵でした。

最後のパリのアメリカ人。この曲の見せ場はパリの喧騒が描かれる部分と、この街を訪れた作曲者が異邦人であることを自覚したのか、ちょっと哀愁の漂うメロディが出てくるところ。

どちらも弦、管ともに20世紀初頭を思わせる響きを生み出していました。
ワーグナー没後からわずか40年でこういう音楽語法が誕生しているわけで、それを1つのプログラムに乗せているわけですから、演奏する側も大変な思いだったでしょう。

まさかのアンコール

この公演は香港、中国、フィリピン、台湾ツアーを経ての最終日であるため、何かアンコールがあるだろうと予想していました。

果たしてオッフェンバックの「天国と地獄」序曲。壮大な音響の世界。

その後、まさかもう1曲披露されるとは。
指揮者、リチャード・パンチャスはマイクを手に各国から若手演奏家が参加したこと(日本からも十数名)を語り、「これまでのリハーサルそしてコンサートの回想として」と、エルガーの「エニグマ変奏曲」より「ニムロッド」を演奏すると告げたのです。

「ニムロッド」はイギリスでは偉い人が亡くなったときの追悼として、またそれ以外でも様々な式典の場で用いられる格調高い曲。
まさかこの場でこの曲を演奏するとは思っていませんでしたが、しかしこれ以上ふさわしい場面もなかなかありません。

演奏家たちは目を赤くしながら演奏し、終演後は涙を拭いながら立ち上がって観衆の拍手に応えていました。

ステージを去り際、およそ2ヶ月にわたって活動を共にしてきた彼らは仲間たちと抱擁しあい、互いの研鑽を称え合っていました。まるでオリンピックの閉会式を思わせる、清々しい終演の様子には、私を含め多くの方が感銘を受けたに違いありません。
(私も素人ながらエレキギターとヴァイオリンでたまに舞台に立つので、この感情は非常に理解できます。)

まとめ

本日の演奏会からは、彼らにとって舞台とは、お互いの成長を促すポジティブな場であったということが伺われました。
アジアと言えば何かと政治的な対立がありがちですが、音楽には国境がないことを改めて認識しました。
今回のオーケストラ体験を糧にますます音楽家として成長していってほしいと心から願っています。