2018年8月4日からフジテレビ系列で毎週土曜 23:40~24:35に放送が始まった渡辺麻友主演ドラマ「いつかこの雨がやむ日まで」。

事前予想記事と第1話の感想に引き続き第2話について書いていきます。

第2話では北園ひかり(渡辺麻友)の葛藤が続きます。

お金がない=苦労しかない。

「同情するなら金をくれ!」

当時小学生だった安達祐実はドラマ「家なき子」のこの台詞で一世を風靡しました。「家なき子」もカネにまつわるドラマで凄惨なシーンが多く話題となりました。

「いつかこの雨がやむ日まで」も同様にカネ絡みのシーンが多く登場します。

・ひかりはキャバクラで働いているが、それでもお金が足りない。給与前借りを勤務先に依頼。
・母は精神疾患。お金がないことに無自覚で、よその家庭にお金を渡してしまう。
・仕事や母の世話ですり減った状態で、ミュージカルの稽古に励まなくてはならない。

知っての通り、ひかりの兄は殺人事件の犯人(一応、そういうことになっている)。ひかりと母は後ろ指をさされながら、社会の片隅でひっそりと暮らしています。itsuame2
(画像:第2話よりキャプチャ。以下同)

しかしある日。この場面のように、幼なじみにキャバクラで働いているところを目撃されてしまいます。なんとも気まずい話ではありませんか。
お金がないことは多くの不幸を招くことを示唆しているようです。社会の暗い部分を見せつけられいたたまれない気持ちになりました。

厄介なのは、お金があっても不幸になる人はいるということです。
大金を手にしたスポーツ選手や大物芸能人で、結局クスリや投資話で破滅してしまう人・・・、いますよね。

貧しさや辛さの中から立ち上がる歌声もある

ひかりはミュージカル劇団の次回上演作品「ロメオとジュリエット」でジュリエットに抜擢されます。
監督は、ひかりの境遇を評してこう言います。「彼女は籠の中の鳥だ」。

自分の何かを解き放てば、そこからほとばしる音楽もあるということでしょうか。

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(伏せがちな目線が心境を表現しています)

私は監督の言葉と、このドラマのここまでの流れを見ていて、反射的に音楽評論家であり合唱指揮者であった宇野功芳の言葉を思い出しました。
この言葉は、「いつかこの雨がやむ日まで」と一脈相通ずるものがあると思いますので紹介いたします。

宇野功芳は(昭和の)東京オリンピックの頃、小松川高校(定時制)に非常勤教員として勤務し、あわせて合唱部の指導者としても生徒を指導していました。

当時の小松川高校は、その頃錦糸町にあった精工舎の工場での勤務を終えた生徒たちが夕方から学びに来るというもの。貧しい暮らしの中で音楽を求める生徒たちが多く合唱部に入部したと言われています。
宇野は小松川高校の教員時代をこう回想します。

小松川定時制にはいい生徒がいましたね。『第七高女』からの伝統があるうえに、家は貧しくても勉強したいという思いで来るわけです。

山の手の定時制っていうのはそうじゃないんです。勉強するのは嫌いだけど仕方ないから定時制くらいは通っておこうって入ってくる人が多いけれど、小松川は違いました。
どんなことしても自分は勉強がしたいって意欲的な人ばかりだから、凄く熱心だったですね。

生徒たちはみんな不幸せなんですよ。
だから(中略)暗い詩の方が上手いんです。心情にぴったりくるから。
『故郷を離るる歌』なんていうのはね、故郷を離れるんじゃなくて、人生に別れを告げるような気持ちで歌いなさい、なんて言うとパッとわかるからね。

(中略)

その頃、大東学園や新宿高校にも教えに行きました。
新宿高校は猛烈へたくそだったなあ。KTU(注:小松川高校の合唱部)と同じ曲をやっていても全然気持ちがないんでしょうね。

大東学園はお嬢様学校でね、声が明るい。明るい声しか出ないんだよ。浅いんだ、声が幼い。小松川と比べるともう子供っぽいんだな。同じ年齢なんだけど、声に苦労が出ていない。だから音色の変化が作れない。みんな明るい声だから。新宿高校はみんな教養のある声しか出ない。嫌な響きですよ。鼻につきましたね(笑)。

小松川はいろんな気持ちを持っているんだよ。それでいて一人ひとりと話すと深い話は出来ない。
あれは不思議なもんだなあ。人生に対する深い話は新宿高校の方が出来るわけ。
小松川の人たちは本も読んでいないし。だけど音楽に出てくる。凄いですよ、感情の襞っていうのは。僕が求めている音楽がすぐに出てくる。モーツァルトの「グロリア」なんかあれは歓喜の歌ですよね。それをどこよりも情熱を持って歌えるんですよ。

(出典:宇野功芳著『宇野功芳の軌跡』、音楽之友社)

引用が長くなりました。

たとえ辛い境遇であっても、いや、辛い境遇だからこそ出せる歌声があるということを宇野功芳は言っています。
他方で経済的に安定していると出せなくなってしまう類の音楽もあるようです。

「いつかこの雨がやむ日まで」のひかりがこれから出すであろう歌声も、もしかすると彼女が背負ってきた過去があってこその響きを生み出すのかもしれない。

そう勝手に予感してしまいました。

引き続き「いつかこの雨がやむ日まで」の考察は続けていきたいと思います。

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渡辺麻友主演「いつかこの雨がやむ日まで」闇深い第1話の感想。

注:本作品は【フジテレビオンデマンド】 でも配信されています。登録すると1ヶ月無料とのこと。